【保管庫閲覧規則】
1.保管物一切の外部持ち出しを禁ず。
2.編纂室を通さない保管物の改竄を禁ず。
3.保管庫は原則を公開書架とし自由閲覧を許可する。
2.編纂室を通さない保管物の改竄を禁ず。
3.保管庫は原則を公開書架とし自由閲覧を許可する。
※保管物の全ては編纂室による架空世界の集積記録であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
※一部保管物には、暴力・死・精神的衝撃、ならびに軽度の性表現・性暴力・虐待を想起させる描写が含まれる可能性があります。
※観測した事象の変遷により保管物に再編纂が生じる可能性があります。
※保管庫内は文書保存の観点より低湿度に維持されています。閲覧に際し眼または咽喉に乾きを覚えた場合は、適宜休息及び水分補給を推奨します。
※一部保管物には、暴力・死・精神的衝撃、ならびに軽度の性表現・性暴力・虐待を想起させる描写が含まれる可能性があります。
※観測した事象の変遷により保管物に再編纂が生じる可能性があります。
※保管庫内は文書保存の観点より低湿度に維持されています。閲覧に際し眼または咽喉に乾きを覚えた場合は、適宜休息及び水分補給を推奨します。
《編纂室連絡窓口》
【編纂室責任者】蓮賀ミツヨシ
白樹暦839年[7件]
【場所】#東部
【人物】#ネクロ #カスタ
=====================
カスタ「そういや、誕生日おめでとう」
ネクロ「あん?ああ、そうか……」
カスタ「今年はバタバタしてたからな。総長就任とか」
ネクロ「すっかり忘れてた」
カスタ「忙しいもんなぁ」
カスタ「俺も今年は申し訳程度だけど、コレ」
ネクロ「いつまでもマメな奴……」
カスタ「そんでこっちがあいつの分」
ネクロ「……………………」
カスタ「必ず貰うように。」
ネクロ「……お前、あの時」
「俺が……」
「……」
「いや、なんでもない」
カスタ「感謝してるよ。お前の選択に。」
ネクロ「……何も言ってねえ」
カスタ「うん。」
「俺はあの時、お前が居なかったら持たなかったかもしれない」
「だから、短い間でも、一緒に居てくれたあいつの事は一生忘れない」
ネクロ「……忘れろよ」
カスタ「忘れないよ。俺にとっても、初めて殺した人間だと思ってる」
ネクロ「……お前は何も……」
カスタ「共犯、だって」
カスタ「思わせてくれよ」
ネクロ「……」
「俺がお前を道連れにしなかったら、他の道もあったかもしれない」
カスタ「そしたら、この地区はもっと荒れてたかもしれない」
「結局平和じゃないと、夢を見ることもできない」
「だからお前の考えには、心から賛同してるつもり」
「その力量があるなら、なおさら」
ネクロ「……」
カスタ「その内情勢が落ち着いたら、早期退職で退職金貰って、郊外に小さなパスタ屋でも開こうかなぁ」
ネクロ「郊外でいいのか」
カスタ「別に流行らせたい訳じゃないしね」
ネクロ「儲けないと食っていけねぇだろ」
カスタ「だから退職金が必要なんだよ。その為にあくせく働くの」
ネクロ「……」
カスタ「俺のささやかな夢の為にも今は、こうしてお前の背中を守って、仲間を守って、そうするのが最善策だと思ってる」
ネクロ「……」
カスタ「だから兄弟、後悔なんてないよ」
カスタ「今も料理はできるしね」
ネクロ「……俺も……」
「……」
「……」
カスタ「うん。わかってるよ。ネクロはシラフじゃ素直になれないからね」
ネクロ「チッ……」
カスタ「お前の根っ子は俺がずっと抱えとく。だからしがらみのないお前は好きなように思い切りやればいい。」
ネクロ「…………」
カスタ「頼りにしてるよ、兄弟。」
ネクロ「ああ……兄弟。」
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【場所】#東部
【人物】#ミヤ #テル #ネクロ
=====================
アパートの窓から外を眺めているミヤ
ミヤ「お兄今日仕事だっけ?」
テル「そう、泊まりで中央だから9時に総長が車で迎えに来る」
ミヤ「ふーん、お土産よろしく」
「……あれ護衛部の車じゃない?」
テル「どこ?」
ミヤ「そこ」
テル「総長!!」
「エッ早い」
「待って荷物」バタバタと自室に走る
ミヤ「総長さんなの?影でよく見えないわ……」
「お兄靴下洗面所だからねー」
テル「先に言えよ!」
ミヤ「昨日言ったわ!」
「あ、降りてきた」
テル「えっ」窓から身を乗り出し
「早いですね!ちょっと待って下さい今行きます!」
アパート前に停めた車の脇にネクロが立っている
ネクロ「別件もあって前乗りになっただけだ」
「時間通りでいい」
テル「いや行きます!」窓から引っ込み
「アレ?俺の歯ブラシは!?」
ミヤ「ボロボロだから新しいのに入れ替えた。だからそこの持ってって」
テル「言えよ!」
ミヤ「それも昨日言ったわお兄生返事してたわ……」
ネクロ「……悪いな休日の朝から騒がせて」
ミヤ「いえー」
ネクロ「滞在は2日の予定だ」
「それまで借りてくぞ」
ミヤ「どうぞどうぞお構い無く」
「全然、むしろありがたいので、兄をどうぞよろしくお願いします」
テル「行ってくる!」ドア閉め音
ミヤ「走ってまた落ちないでよー」
ネクロ「落ちたのか」
ミヤ「前に階段で足踏み外して踊り場まで」
ネクロ「…………」
ミヤ「あ、あいつ案外丈夫なんで、ケガとかはなかったんですけど」
ネクロ「そうか……」
テル「お待たせしました……!」階下に到着する
ネクロ「時間通りでいいと言っただろ……」
テル「そっちが前乗りしたんでしょう」
ネクロ「思ったより用事が早く片付いたんだよ」
「朝飯は」
テル「食べました」
「総長は?」
ネクロ「駅前で買う」
テル「運転代わりますよ」
ネクロ「市外に出てからでいい」
「ところで階段から落ちたとか」
テル「エッいやそんな大したことはなく……もう結構前ですよ」
「あっアパート損壊させたりしてないですよ」
ネクロ「それは別に……元から古いしな……」
テル「えっじゃあ純粋に僕の心配してくれたんですか」
ネクロ「荷物大丈夫か」スルーする
テル「大丈夫です」
ミヤ「嬉しそうにしちゃってぶりっこヤロー……」
ネクロがミヤに会釈する
ミヤ「あっ……」ペコ
車が走り去っていく
ミヤ「気を付けて」
「いってらっしゃい」
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【場所】#護衛部東本部
【人物】#ネクロ #テル
=====================
政府役人「……!ようやくか……」
本部に帰還した二人を苛立った様子の役人が迎える
ネクロ「お待たせを」
政府役人「全く君ねぇ……!あちこち出歩くのはもっと控えて貰わんと!いつまでもヒラ隊員のような感覚では困るんだよ!」
ネクロ「……」
政府役人「総長っていうのは必要な時すぐ連絡がつくようもっとじっとしているべきだ。何でわざわざ出向いたこちらが何時間も……」
テル「失礼ですが護衛部においてはその限りではないかと」
政府役人「なに……?」
テル「過去に2人式典中に暗殺されています。所定の位置にただ収まっていることが脅威になることもあるのです」
政府役人「ハッ……流石野蛮な高原人は思考回路が違うな」
ネクロ、役人に詰め寄り
ネクロ「野蛮は礼儀も知らぬそちらでは?折角のハイエンドも中身がこれでは形無しだ」
「それとも道化を気取るために敢えてそうされているのですかね」
◆
役人が帰ったのち
テル「……まぁあの方の言い分も理がありましたけどね。実際不便ですし」
ネクロ「ならさっきそう言えばよかっただろ」コーヒーを飲みつつ
テル「言い方がムカついたんで……」
ネクロ「俺もだ」
テル「……」
ネクロ「……」
テル、ふっと吹き出し
テル「やっぱり僕らまだ、我慢の足りない子供かもしれませんね」
ネクロ「我慢なら充分身に着けてるだろ。あいつが梢外の道理を知らないだけだ」
テル「だって貴方も移動の疲れで最初からイラついてたでしょ」
ネクロ「ダラダラしてぇのに開幕あの顔で最悪な気分だった」
テル「あっはは」
ネクロ「中央勤務も楽じゃないだろうな、あんなのが集ってるとこに毎朝出勤だなんて拷問だ」
テル「東本部も中々のムサ苦しさかと思いますが」
ネクロ「この埃っぽさのが落ち着く」
テル「………」笑顔でしみじみとネクロを見ている
テル「…そうですね」
「一息ついたら次の仕事を始めましょう」
ネクロ「…おう」
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【場所】#道すがら
【人物】#ネクロ #テル
=====================
ジープに乗り込む二人
運転手はテル
テル「全くなんで本部長会合の前に限ってバタつくんですかね」
「資料これです目を通しておいて下さい」
「コーヒー足元のボトルに入ってます」
「飛ばしますよ」
ネクロ(疲れてバテ気味)(資料をめくる)
テル「(急ハンドルをきりながら)前回西部勾留所拡張案の件で北部と意見対立してましたけど拡張先について別案が出たとのことで、(急ハンドルをきりながら)三つの候補地から妥協点を模索していけたらなというのが第一議題なんですけど、それについて南部からも消極的ながら要望があり詳細については(急停車)4ページ目末尾に記載しているんですが確かにここ数年の治安指数を考えるとその地域に悪影響がないとも(急発進)言えないかなと、関連資料を添付しましたのでそれは6ページ目に……」
ネクロ「(蒼白)」
ネクロ「停めろ」
テル「わわわっちょっ危ないです!」
ネクロ「いいから今すぐ停めろ運転を替われ」
運転交代
ネクロ「最初からこうすりゃよかった……」
「資料はお前が音読しろ」
テル「えぇー……」
ネクロ「お前は入り抜きが雑すぎんだよ」
「緩急は必要だが予備動作は大事にしろ。自分本意な動きばっかりすんな。次にどう動くか読めないとストレスになる」
テル「……すいません、何の話です?」
ネクロ「運転だ」
ネクロ「そういうとこが童貞なんだぞ」
テル「いやそれとこれとは関係ないでしょう!?」
ネクロ「大いにある」「いい店紹介してやるから今日にでも卒業してこいよ……」
テル「嫌です」
ネクロ「何でだよ金持ってるくせに……」
テル「総長は解決策をなんでもかんでもそこに求めすぎですよ」
ネクロ「俺の経験談から言ってんだから素直に受け取れよ」
テル「人には向き不向きがあるんです」
◆
ネクロ「……建設的じゃないなキフロ参謀」
「このままじゃお前は一生助手席で会議資料を音読する羽目になるんだぞ」
テル「一生聞いててくれるなら本望ですー」
ネクロ「(ふざけんなという顔)」
テル「あ、すみませんちょっと調子乗りました。善処します」
ネクロ「じゃあ俺の運転頭に叩き込め」
テル「見て覚えられるものでもないですよ」
ネクロ「感覚で掴め」
テル「感覚ってそんな……抽象的で苦手なんですよ……」
◆
テル「寝そうです……」
ネクロ「起きろ」
テル「緊張感が失われるという点はデメリットなのでは?」
ネクロ「お前の運転だと緊張以外に何も得られない」
テル「そんなにですかねぇ……」
テル「……総長昔からこんな運転丁寧なんですか」
ネクロ「……雑な時期もあった」
テル「どうやって上手くなったんです?」
ネクロ「ベテランにはガキ臭い運転じゃ相手にされない」
テル「結局女遊びなんですね」
「お好きですね~~~~」
ネクロ「なんとでも言え」
「身になってればキッカケはなんでもいいんだよ」
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【場所】#護衛部東本部 #護衛部北本部
【人物】#テル #ネクロ #クレマン
=====================
テル「申請書!?書類の照会を本部から打診しているのに申請書を求めるんですか!?」
「何故電話連絡しているんだと思います?急ぎなんですよ!」
「だから過去の資料の照会依頼です。詳細は本部長に直接伝えます」
「例外って……いやそちらがこちらからの請求を拒否する権限なんてないんですからそちらが例外的対応を……」
ネクロ「……替われ」
テル「………」
ネクロ「……」
テル「……」しぶしぶ替わる
ネクロ「総長のネクロだ。クレマンを出せ」
「いいから替われ。至急の案件だ」
「お前に文句が言いたいんじゃない。クレマンに言う。お前の落ち度にはならない。いいから繋げ」
「……」
「……主人に替われ」
「二度手間だ。時間が惜しい。居るんだろう」
「じゃあこう言え。照会請求を受けてもどこに何が保管されているか全く把握していないお飾りの本部長ではなく実務担当者を出せと言っていると」
「……」
クレマン『何を騒いでいるのだ……』
ネクロ「あんたがキフロの連絡を軽視するせいで騒ぎになっているんだ」
「言ったはずだ。総長代行権限を与えていると。キフロの連絡は率先で対処しろ」
テル「……」
クレマン『総長、代行……何の後ろ盾も持たないアズラ・タルが……』
ネクロ「もしかして加齢による難聴か?クレマン。急ぎの案件だと再三言っているはずだ」
「喧嘩を売るなら別の機会にしてくれ」
クレマン『ネクロ君……物事には流儀というものがある……我々が君のアズラの言う事を二つ返事できくというのは……あまりにそう、無作法だ……』
ネクロ「………」
クレマン『君にも言ったはずだ……北には北の流儀があると……中央には中央の……草原には草原の流儀があるように……』
ネクロ「いくらグダグダ言おうと現護衛部の最高責任者は俺だ。俺の代には俺のやり方を通させて貰う」
クレマン『なら私の首を刎ねるかね……』
ネクロ「…」
クレマン『刎ねてみるかね……東本部長……もう君の義父上はいないのだよ……』
テル「……総長……」
ネクロ「………」
クレマン『まあいい、それで、用件はなんだったか……今回は例外的に対処しよう……東本部の礼儀がなっていないのはよくよく承知しているからな……』
◆
テル「……目に余ります」
ネクロ「……」溜息
テル「立場を誤認している。中央寄りとはいえ所属は護衛部である以上総長に従わないのは隊則違反です」
ネクロ「……そうだな……」
テル「本当に挿げ替えてしまっては?」
ネクロ「誰に」
テル「北の人間以外に」
ネクロ「それをやるなら中身を丸ごと入れ替える必要がある……」
テル「その方が話が早そうですが」
ネクロ「同時に葬られる案件も山ほどあるだろう……」
テル「結局北を優遇するのは資金面の問題ですよね?」
ネクロ「まぁそうなる……」
テル「北を切ろうとすると第一と北の連合と東西南護衛部で内乱に?」
ネクロ「充分あり得る……」
テル「金貨をちらつかせてふんぞり返るなんて山賊と大差ないじゃないですか」
ネクロ「奴らをまるごと掃除してあの土地を得られれば言うことないが、考え得る代償が大きすぎる……なだめすかして上手く転がしていくのが現状最適解と言えるだろう……」
テル「何故クレマンは先々代のことを?」
ネクロ「……」
テル「先々代は北本部との関係が良かったですよね」
ネクロ「俺も詳しくは知らない……」
テル「………」
ネクロ「いっそロイスを北に置けたら楽そうなんだが……」
テル「絶対嫌がりますよね」
ネクロ「死んでも嫌だと言うだろう……」
テル「どこかに貴族の三男とかいないんですか……適度に北と繋がりのある……」
ネクロ「三男は大体北本部にいる……長男次男は一軍だ」
テル「コナー先生に中央から派遣して貰うとか……エルリューさんがいるじゃないですか!」
ネクロ「あいつが受け持ってんのはヒヨっ子だ。使えるとして5年後かそこらだろ……」
テル「兄弟筋とか……」
ネクロ「今度打診してみろ……」
テル「取り持ってくれないんですか」
ネクロ「……」
テル「もしかしてエルリューさんに頼るのが気まずいとかそういうアレですか」
ネクロ「……」
テル「私情を挟まないで下さいよ仕事なんですから」
ネクロ「あいつに高度な采配を期待しても無駄だぞ……」
「確かに情には厚いがそれだけだ」
「あとはやたら的当てが上手いだけだ」
テル「何もそんなに下げなくても……」
「……あ、そうか、エルリューさんを護衛部に関わらせることに抵抗があるんです?」
ネクロ「……」
テル「そっちか……」
「あー……」
「まぁ確かに……」
ネクロ「この話は終わりだ」
テル「やっぱりエルリューさんのこと好きなんですね」
ネクロ「終わりだ」
テル「ほんと遠回しですよねぇ」
ネクロ「何度も言わせるな」
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【場所】#北部
【人物】#ネクロ #テル
=====================
住民「アズラ・タルの隊員?」
住民「従者だろう」
住民「非生産的な寄生移民だよ」
ネクロ「……………」静かに憤慨している
テル「気にすることはないですよ。保守的な地域ではよくあることです」
ネクロ「…………」
テル「言われ慣れていますから、平気ですよ」
「外の驚異に身構えるのは当然の事ですし」
ネクロ「お前は外の人間じゃない」
テル「説明してどうなります?移民の純血のティディクだと?」
「それで彼らの不安を取り除くことは出来ないでしょう」
ネクロ「だからって……お前は奴らに何もしていないのにこの扱いは不当だ」
テル「総長、分かり合えない事はあるんです」
「仕方がないですよそうした歴史があるのは事実ですから」
「僕が彼らに何をしたかではなく、この血を引いているのが問題なのです」
ネクロ「知れば理解できることもある」
テル「出来ないこともあります。それに割く労力が勿体ないですよ」
「別に理解されなくても構わないんです。適切に、距離をとっていれば諍いにもなりません」
「例え分かり合えずとも、衝突しなければ平穏でいられるんです」
ネクロ「お前がこんな扱いを受けることのどこが平穏なんだ」
テル「総長、僕は貴方がこうして怒って下さるだけで、もう溜飲が下がっているんですよ」
「この扱いなんかより、貴方が心を尽くしてくれたことの方が、ずっと大きな意味を持つんです」
「だから気にしなくていいんです」
ネクロ「俺は収まりがつかない」
テル「そうですか」
「じゃあ何か美味しいものでも食べます?」
ネクロ「あのな……」
テル「貴方と一緒ならちゃんとした料理も食べられるでしょうし」
ネクロ「………」
テル「茶飯事ですよ。アズラ・タルだからと扱いに差を受けるのは」
「気にしていたらしょうがないんです。ここはそういう世界なんですよ」
「変わっているのは貴方の方です」
ネクロ「………」
テル「貴方みたいにいちいち腹を立ててたら身が持ちませんよ」
「流しておくのが一番ですから」
ネクロ「俺は、自分をどう言われようと気にならない」
「ただ、お前が謂われなく貶されるのを黙ってはいられない」
テル「ありがとうございます…」
「けど、彼らからしたら謂れはあるんですよ」
「これは侵略者の姿なのです」
「警戒するのは仕方のないことです」
ネクロ「………」
テル「いくら生まれは森だと話しても、確執は簡単に消えはしないんです」
「だから相手に過度な期待をするよりも、適切な距離を置くことを重視した方が、互いに消耗せずに済むんです」
ネクロ「それじゃいつまでたっても変わらない」
テル「総長、誰しも勇気と力があるわけではないんです」
「僕達はこの国では圧倒的に少数で、そして外敵の縁者なのです」
ネクロ「………」
テル「波風は出来るだけ立てないことが懸命です」
「深入りせず、穏やかに、愛想よく……」
「せめて善き隣人であるように」
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【場所】#護衛部東本部
【人物】#ネクロ #テル #カスタ
=====================
ネクロ「俺の参謀役を任せる予定のテルだ」
テル「は、初めまして……」
ネクロ「元は輜重で補給部隊配属だった。主に隊運営の事務方のまとめ役を担ってもらうつもりだ」
カスタ「初めまして。こいつの義兄のカスタだ」
テル「存じております……ご活躍のお噂は兼ねがね……」
カスタ「そんな畏まらなくていいよ。若いな。歳は?」
テル「18です……」
カスタ「……」
ネクロ「歳は関係ない」
カスタ「そうだけど……」
カスタ「大体どこで見つけてきたんだ?大人しそうな子なのに……」
ネクロ「俺の交友関係に偏見あり過ぎだろ」
「"持って"んだよ偶々見つけた」
「こいつの能力は今後護衛部に絶対役立つ。俺もお前も持ちえない分野だ」
「ホラ得意分野。言ってみろ」
テル「えっ……」
ネクロ「ひとまず自分で説明してみろ」
テル「えっ……えっと……得意なのは……情報集積、です……」
カスタ「情報集積?」
テル「はい……」
ネクロ「要は資料まとめだ」
「俺は交渉事はまあ好きな方だが紙物はそんなにやる気が起きない。お前もだろう」
カスタ「うん」
ネクロ「だが隊運営には必要不可欠だ。こいつは字は壊滅的に下手だが情報を取捨選別して過不足ない資料を作る才能に長けている」
「これを見ろ」くたびれた分厚い紙束を机に置く
ネクロ「こいつの作っていた補給ルートのメモだ。それぞれのルートの詳細、問題発生時の変更パターン、メンバー毎の効率的な役割分担、補給物品の根本的な変更案まである」
カスタ「……何語……?」目を細める
テル「一応フォレス語です……部分的には母語使っちゃってますが……」
ネクロ「俺は読み込んだから全部判るようになった」
カスタ「お前凄いな……というか母語ってことは」
ネクロ「テルの親は高原アズラからの移住組でこいつは移民2世だ。いくつの言語を話せるか教えてやれ」
テル「部族数的には7つです……」
カスタ「7つ……!」
ネクロ「圧倒的に部隊の情報掌握、集積効率が上がる」
「おまけに特技は」
テル「チェスです……」
ネクロ「俺は一度も勝ててない」
カスタ「おお……でも俺チェスが苦手だからお前がどのくらい強いのかよく分かってない」
ネクロ「それなりに強いぞ。一応ガストには勝ったことがある。つまるところ」
「とにかくこいつは情報解析能力と集中力、学習能力が高い」
「長い目で見て現状、こいつ以上に俺の参謀の適役はいない」
テル(照れ…)
ネクロ「……元々、第一の内勤に異動の話があったのをこっちに引き込んだ」
カスタ「引き抜きってことか?」
テル「いや……先生が推薦してくれたんです……」
ネクロ「だからコナーのお墨付きだ。奴の後援も期待できる」
カスタ「お前そういうとこ抜かりないよな……」
ネクロ「梢外地域の天下取りだぞそれくらい当然だ」
カスタ「…俺からすると、お前も相当勉強家で頭が切れて向上心が強いと思う」
ネクロ「………」
テル「………」
カスタ「そんなお前がそう言う相手なんだから、きっとそうなんだろう」
カスタ「……あとは変な弱み握られて脅されたりしてないかは心配だけど……」
ネクロ「お前……」
テル「い、いやそういうのは……特にない、です……」
カスタ「大丈夫?何かあったら遠慮なく言えよ?俺はこいつぶん投げられるから……」
ネクロ「いい加減にしろよ……」
ネクロ「……テル、先に話したようにこいつは単純に戦力の要になる。更に俺の物理的抑止力として、独裁にならないようかなりの権限を与える。だが所詮身内だ。割り切れない部分がある」
「その為のお前だ」
テル「……」
ネクロ「俺はお前に他人として外から冷静に俯瞰する役割を期待している」
テル「……はい」
ネクロ「俺は自分が万能だとは微塵も思っていない。ただ何も備えない程愚鈍ではありたくない」
「お前らには俺の道行を支えて欲しい」
カスタ「ああ」
テル「はい」
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