【保管庫閲覧規則】


1.保管物一切の外部持ち出しを禁ず。
2.編纂室を通さない保管物の改竄を禁ず。
3.保管庫は原則を公開書架とし自由閲覧を許可する。


※保管物の全ては編纂室による架空世界の集積記録であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
※一部保管物には、暴力・死・精神的衝撃、ならびに軽度の性表現・性暴力・虐待を想起させる描写が含まれる可能性があります。
※観測した事象の変遷により保管物に再編纂が生じる可能性があります。
※保管庫内は文書保存の観点より低湿度に維持されています。閲覧に際し眼または咽喉に乾きを覚えた場合は、適宜休息及び水分補給を推奨します。


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【編纂室責任者】蓮賀ミツヨシ

白樹暦818年6件]


【場所】#北部
【人物】#イーリス #ヘルマン #ユリウス
=====================

窓辺で談笑するイーリスとヘルマン

ユリウス「……」
イーリス「あら、お兄様……」
ヘルマン「!」
ユリウス「……」
イーリス「……お兄様、こちらがヘルマンさんよ」
ヘルマン「どうも、初めまして……」
ユリウス、鼻で笑う

イーリス「……」
ヘルマン「……」
ユリウス「ヘルマン、ね……名に似合った如何にも愚鈍な面構えだな」
イーリス「お兄様」
ヘルマン「……」
ユリウス「貧乏貴族の三男坊だったか。まぁこの欠陥品にはちょうどよかろう」
イーリス「……」
ヘルマン「……」
ユリウス「身体が弱すぎて妻としての勤めはろくに果たせぬやもしれんがな。試してからの返品はご遠慮いただけると幸いだ」
ヘルマン「失礼ながら」

ユリウス「……なんだね」
ヘルマン「お兄様といえど彼女をこれ以上侮辱するのは止めていただきたい。」
イーリス「……」
ユリウス「下級貴族の分際で、口だけは達者とは滑稽だな」
ヘルマン「滑稽なのは貴方だ。」
イーリス「!」

ユリウス「……」
ヘルマン「彼女の結婚を祝福出来ないのなら、せめて傷付けないでいただきたい」
イーリス「……ヘルマンさん……」
ユリウス「……」
ヘルマン「……僕が至らないのはごもっともです。ですが、誠心誠意、この身が果てるまで添い遂げる決心です。」
ユリウス「……」
ユリウス「……勝手にするがいい。せいぜい三流とスクラップで仲良くしていることだな」
立ち去る

イーリス「……」
ヘルマン「……」
イーリス「ごめんなさい……」
ヘルマン「貴女が謝る事じゃない……」
イーリス「昔は……あんな人ではなかったんです……」
ヘルマン「……」
イーリス「病気がちな私に……ベッドの脇でいつも本を読んでくれて……」
「庭の草花を摘んできてくれたり……勉強を教えてくれたり……」
ヘルマン「……」
イーリス「兄は頭も良く、身体も丈夫だったので、両親の自慢でした……」
ヘルマン「……」
イーリス「あんな風になってしまったのは……兄に縁談が来た頃からで……」
「……」
「……ずっと私を看病するから、縁談など受けないと……」

ヘルマン「……」
イーリス「当然、周りは困惑して……」
「それから兄は……いくつも縁談を断り続け……」
「痺れを切らした父が……この縁談を……」
ヘルマン「そう、だったんですね……」
イーリス「私に夫が出来れば、兄も改心するのではと考えたようですが……」
「……」

ヘルマン「……お兄様は……愛情深い人なんですね」
イーリス「え……?」
ヘルマン「イーリスさんを、とても大切に思っていた……きっと、今もそれは変わらないんです」
イーリス「……」
ヘルマン「けれど、あまりに深い愛情は、一度裏返ると厄介で……」
「自分でも、どうすることもできないんでしょう……」
イーリス「……」
「そんな風に、考えたことなかったです……」
ヘルマン「……憶測ですけどね」
イーリス「凄いわ……」
ヘルマン「えっ……」
イーリス「ずっと胸につかえていたものが、なくなったみたい……」
ヘルマン「……」
イーリス「お兄様も……幸せになれるといいのに……」

ヘルマン「……」
「……」
「……!」
「い……イーリスさんは……今……」
イーリス「私は……幸せに……なれますでしょう?」
ヘルマン「もっ、もちろん!……」
「きっと……幸せに……」
イーリス微笑む

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〔 1477文字 〕


【場所】#北部
【人物】#ユリウス #イーリス
=====================

リヴェロス家 居間にて

ユリウス「……どうだった見合いは」
イーリス「あら……ご興味があって?」
ユリウス「……さぞ身の毛もよだつ醜男だったのだろうな」
イーリス「残念だけれど、とても素敵な方でしたわ……」
ユリウス「……」
イーリス「元は気の進まない縁談だったけれど……」僅かに顔がほころぶ

ユリウス「……」
「……受けるのか」
イーリス「……私に断る権利があるとお思いで……?」
ユリウス「はっ!そんなものは当然ないさ」
「いつ死ぬやも分からん半死人の嫁など、貰い手がいるなら熨斗を付けて差し出すくらいだ」
イーリス「……なら、もっとお喜びになられたらどう?お望み通り貰い手がつくのだから」

ユリウス「……」
イーリス「まぁ……あちらに来ていただく形になるのだけれど……」
ユリウス「……」
イーリス「……お兄様も、散々お断りになられたお相手方に負けないような素敵な方を、何処かで見つけて下さいね」
ユリウス「……」
イーリス「楽しみにしております。」居間から立ち去る


ユリウス「……」
「……」
「……」
「そんな女が、この世に居るものか…………」
「……イーリス…………」

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〔 567文字 〕


【場所】#北部
【人物】#イーリス #ヘルマン
=====================

リヴェロス家の静かな中庭を歩く二人
整えられた庭には薬草を中心に様々な花木が植えられている


ヘルマン「(二人で中庭に出てみたものの……)」
イーリス「……」
ヘルマン「(何を話したらいいものか……)」
イーリス「……」
ヘルマン「(それにしても……まさかうちのような三流貴族にこんな縁談が舞い込むなんて……)」
「(ご長男は何か事情がおありでか独身、妹のイーリスさんが家督を預かる為に我が家は婿入り)」
「(かなりお身体が病弱とのことで、下流の我が家との縁談は半ば捨て鉢的判断だと囁かれていたが……)」

イーリス「……ヘルマンさん」
ヘルマン「は、はい……」
イーリス「植物に……お詳しいのですよね」
ヘルマン「ええ……まぁ……好きが高じて……」
イーリス「このお花はなんでしたかしら……」
ヘルマン「ああ、それはアイリスですよ」
イーリス「アイリス……」
ヘルマン「遠い国では虹の女神の名前だと。イーリスさんのお名前も、同じ由来かもしれませんね」
イーリス「!……そうなのかしら……」目を見開いている
「もの知らずでお恥ずかしいです……」
ヘルマン「(可憐で……まるで……花木の精のよう……)」密かに見惚れている

ヘルマン「い、いえ……その方が……これからきっと、楽しいですよ……」
イーリス「え……?」
ヘルマン「ああいや……ええと……何を学んでも、新鮮でしょうから……」
「そう言っても、僕が教えられることなんて花や木の事ばかりなんですが……特に、食べられる木の実とか……」
イーリス「……クス」
ヘルマン「(笑うと、一層美しいな……)」
イーリス「どんな木の実がお好きなの?」
ヘルマン「今の時期ならアケビとか……ヤマモモなんかもいいですね」
イーリス「ヤマモモ?」
ヘルマン「所謂モモとは違う小さな粒の集まりでできた実で、ちょっと酸味が強いんですが、ジャムにしても旨いんです」
イーリス「まぁ……食べてみたい」
ヘルマン「よければお作りしますよ」
イーリス「素敵……」
「……昔から、体に負担のかからないものばかり食べさせられて、食べ物も知らないものばかりなんです」
「当家はだいぶ……古い風習を重んじる方でしたので……」
ヘルマン「……」

イーリス「きっとそのヤマモモは、身体にいい食べ物なのですね」
ヘルマン「……?」
イーリス「だってヘルマンさんは、そんなにお身体が立派なんですもの」
ヘルマン「……っ」赤面
「む、昔から……食い意地ばかり張っていたので……」
イーリス「あら、素晴らしい事だわ……」
ヘルマン「……」赤面
イーリス「素敵なことです……」

ヘルマン「……イーリスさん」
イーリス「……はい」
ヘルマン「この結婚が、貴族の古い慣習によるものだったとしても……」
「僕は……この出会いに感謝したい。そして、これからの日々を、きっと素晴らしいものにしたいと思っています」
イーリス「……」
ヘルマン「貴女と……二人で……」
イーリス「……」
ヘルマン「……もっと、気のきいた台詞が出てくればな……」
「……お恥ずかしい……」
イーリス「……」
「クス……」
ヘルマン「……」
イーリス「いいえ、私も……」
「本当は縁談など……お相手のご迷惑になるばかりで、お断りすべきだと思っていたのです……」
「……けれど……貴方となら……」薄っすらと赤面

ヘルマン「……!」
イーリス「……」
ヘルマン「……」
イーリス「(な、なんでしょう顔が妙に火照るわ……)」
ヘルマン「(顔を赤らめたイーリスさんもお美しい……)」
イーリス「(熱かしら……)」
ヘルマン「(彼女が僕の妻に……)」
イーリス「あっ……」動揺からよろける
ヘルマン「あ、あぶない!」そっと支える

イーリス「……」
ヘルマン「……」
イーリス「(逞しい腕……温かい……)」
ヘルマン「(なんて細くて軽い……)」
イーリス「……」
ヘルマン「……」
イーリス「あっ、あの……」
ヘルマン「あ、いや、すみません!どこか痛めませんでしたか?」パッと手を離す
イーリス「い、いえ……だ、大丈夫……です……」
ヘルマン「なら良かった……」距離をとろうとする
イーリス「……」裾を掴む
ヘルマン「……!!」
イーリス「……」
イーリス「あ、あの……」
ヘルマン「」心臓が高鳴る
イーリス「あ、温かいのですね……」
ヘルマン「えっ……」
イーリス「その……手……が……」
ヘルマン「手……」
イーリス「手……」
ヘルマン「……」そっとイーリスの手を握る
イーリス「……」
ヘルマン「……」
イーリス「温かい……」
ヘルマン「……」穏やかに微笑む

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〔 1985文字 〕


【場所】#東部
【人物】#ガスト #エルリュー #イワノフ
=====================

ガストの自宅にて
チャイム音


ガスト「ん?」
エルリュー「出てくる」
ガスト「おう」

エルリュー「はいー」
イワノフ「なんで、しれっと居座ってやがる」

エルリュー「!!!……え、えと………」
イワノフ「入団したんならとっとと寮に移りやがれ!空きあるだろうが!」
ガスト「あ~いや俺がさ~部屋片付けられなくて……居てくれると助かってさぁ……」
イワノフ「何ガキみてぇなこと言ってやがる幾つだお前!片付けくらいてめぇでやりやがれ!」
ガスト「やろうとはしてるんだがな~」
イワノフ「大体お前の稼ぎなら使用人でも雇えばいいだろうが!」
ガスト「そんなに広くないし……」
イワノフ「引っ越せ!もっとマトモな家に!」
ガスト「もて余すから~……現にこの広さでも片付けられないし……」
イワノフ「だから!」
「あーもうイライラする……!!」
「てめぇもなんとか言えコラ!」
エルリュー「えっ……ええっと……」
イワノフ「自立したいと思わねぇのか!いい歳こいていつまでも居着いてんじゃねぇよ!」
エルリュー「お、おっしゃる通りで……」
ガスト「まーまー落ち着け……」
イワノフ「てめぇはしゃしゃり出てくんな片付けでもしてろ!」
ガスト「いやぁエルが居ると綺麗だから片付けるとこないんだよな」
イワノフ「だああ!!」

イワノフ「じゃあなんだ?ずっとここに置いとくのか?」
ガスト「ずっとかどうかは……なぁ」
エルリュー「お、おう……」
イワノフ「それで何年経った」
ガスト「何年だっけ?」
エルリュー「……3年……」
ガスト「ええっもうそんなにかぁ~あっという間だなぁ」
イワノフ「ふざけんなよ……」

ガスト「でも何でお前がそんなに怒るんだ?」
イワノフ「なっ………」
ガスト「お前に迷惑はかけてないだろ?」
イワノフ「そっ………」
エルリュー「………」
ガスト「心配すんなよ。悪い奴じゃないから」
イワノフ「そういう問題じゃ……」
ガスト「じゃあなんだ?」
イワノフ「………」
エルリュー「………」
イワノフ「いや、もういい」
「つうか本来の目的はこれじゃねえ……」
ガスト「ああ、何かあったのか?」

仕事のことづて

ガスト「わざわざありがとうな」
イワノフ「……仕事だ」
ガスト「頼りにしてるよ」
イワノフ「………」

イワノフが去る

エルリュー「………」
ガスト「心配性だなアーリクは。そこがいいところでもあるんだが」
エルリュー「オッサン……」
「俺あの人にすげえ敵視されてる気がすんだけど……」
ガスト「まぁお前に妬いてるんだろ」
エルリュー「……!?」
ガスト「可愛い奴なんだよ。見た目はゴツいけど」
エルリュー「……そう思うならなんであんな言い方すんだよ……」
ガスト「ん?んー……」
「素直じゃないとこがいいよな」
エルリュー「(相変わらず時々何考えてんだかわかんねぇ……)」

エルリュー「……俺、出て行かなくていいのか」
ガスト「出て行きたいならいつでもいいぞ。好きにすればいい」
エルリュー「……そんで3日で元に戻すのか」
ガスト「2日だなぁ~」
エルリュー「………」
ガスト「………わざとじゃないんだぞ?」
エルリュー「そこがタチ悪ぃ……」
ガスト「まぁでも本当、お前が来る前はそれで生活してたんだから、別に戻ったっていいんだよ」
「どうせ家にいる時間もそんなに長くないしな」
「今が特別なだけで」
エルリュー「………あんたはそういうとこがズルいよな」
ガスト「本心だぞ?」
エルリュー「知ってるよ」
「……出ていって欲しくはねぇのか」
ガスト「もちろん。いつまで居たっていい」
エルリュー「それどういう意味か分かってんのか」
ガスト「分かってないよ」
エルリュー「は?」
ガスト「今確かにそう思うだけ」
「追い出したいなんて思わない。居てくれると助かるよ。お前と居るのは楽しいし」
エルリュー「……………」
ガスト「でもお前が嫌なら引き留めない」
エルリュー「………はぁ~あ」
「めんどくせぇ奴に貸し作っちまったな」
ガスト「貸しなんてもうないだろ。充分返してくれてる」
エルリュー「そういうことにさせといてくれよ」
ガスト「……お前も素直じゃないタイプだよなぁ」
エルリュー「うるせー」

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〔 1829文字 〕


【場所】#南部
【人物】#クロード #マル #ステラ
=====================

南部のとある商社にて

クロード「マル……!!マルマルマル!!」
マル「あんだようるせえなどうした」
クロード「うまっ!うまうま……」
マル「馬?」
クロード「産まれた!!」
マル「はっ!?」
クロード「産まれたって!!電話が!!」
マル「なっ、明日までかかりそうだからってさっき病院から戻ってきたんじゃなかったのかよ……!」
クロード「だが産まれた!!行くぞ!!」
マル「えっちょ……」
クロード「テッド!聞こえてたなそういうことだ!悪いがまた抜ける!行くぞマル走れ走れ」駐車場に誘導する
マル「なんで俺まで……」
クロード「見たくないのか俺の子が!」
マル「ど……どんな圧だよ……」

クロード「俺は事故りそうだから運転してくれ頼む。だが急げよ限りなく早く!」
マル「ドライバーかよ……ったく安全運転だぞ俺ぁ」
クロード「分かっているさこのグズ!急いでくれもっと早く!早く!」メーターボックスを叩きつつ
マル「運転して欲しいなら大人しくしてろよ!お前が慌てたとこでもう産まれてんだから……」
クロード「そうだよ産まれてる!ステラと俺の子が……ステラと俺の……ウッ……」
マル「まぁなんだ、無事に産まれてよかったな」
クロード「行けマル!渡りきれ!」
マル「うわっちょ……!!てめふざけんなよ!勝手にギア上げんな!!」
クロード「次の交差点は左だぞ!」
マル「大人しくしてろっつっただろ捨ててくぞ!」
クロード「いいのか?」
マル「あん?」
クロード「父と子の初めての邂逅に水を指すことになるんだぞ?」
マル「お前の行儀の悪さが原因でな。もういい加減俺もその論法には慣れたわ」
クロード「お前も少しは進歩したと言うことか。俺としても喜ばしい事でなによりだ」
マル「何でそう上からなんだよ、ったくよ……」

病院に到着
病室の前で立ち止まるクロード


クロード「……」
マル「(流石のこいつも緊張してんのか)」「……普段通りでいけよ」
クロード「……ああ」
戸を開け
クロード「遅くなってすまない!……」
ステラ「あっ、ほらパパですよ~」赤ん坊を抱いている
クロード「……」
ステラ「あっマルさんも来てくれたの」
マル「おう、おめでとう。大丈夫かい」
ステラ「ふしぶし痛い~。でも、見て、かわいいの……見てると痛みも忘れちゃう……」
マル「はは、すっかり母親の顔だなぁ」
ステラ「そうかな?へへ……」
マル「お前もなんか言えよ口達者」
クロード「………………お……」
ステラ「お?」
クロード「……おとこ……?おんな……?」
ステラ「ふふ~……男の子!」
マル「お、勘が当たったか」
ステラ「そうなんです~かわいいかわいい男の子……」
クロード「男の子………………」
ステラ「あなたの息子だよ」
クロード「お、俺の……」
マル「……」
ステラ「ほら、抱いてあげて」
クロード「~っ……」モタモタしつつ抱き抱える
ステラ「目の色がね、……開けるかな~」
クロード「………………」
ステラ「あ、ほら、あなたと一緒……」
クロード「…………」目を見開いて見つめている
ステラ「ふふ……かわいい……」
クロード「……」
ステラ「クロード……」
クロード「……」
ステラ「家族が増えたね」
クロード「…………っ……」
ステラ「これからよろしくね、パパ」
クロード「………………ス、ステラ……っ」
ステラ「名前を決めなきゃね」
クロード「ステラ…………っ……うう……」
ステラ「あ、あくびしたぁ」
クロード「うぐっ……あ、ありがとうステラ……っ」
ステラ「頑張りましたから~」
クロード「グス……ありがとう本当に……本当……よく……っ」
ステラ「クロードもよく頑張りましたね。でも大変なのはこれからよ?」
クロード「うん……うん……」「かわいいな……」
ステラ「でしょ~?」
クロード「君に似てる……」
ステラ「そうかな?ふふっ」
クロード「本当……俺の……グスっ……子供……っ……ありがと……っ」
ステラ「もう泣きすぎ~ほらティッシュティッシュ!」
クロード「えぐえぐ……」
ステラ「マルさんそこのタオルとって!」
マル「おうおう……ほらクロード」
クロード「ずびび」タオルで鼻をかむ
ステラ「あっ、そっちじゃない……もう~」

クロード(ステラに赤子を渡しつつ)「……グス……何か、必要なものがあったら届けるよ。退院まで毎日来るから」
ステラ「あは、大丈夫よ大体のもの揃ってるから。でも顔出してくれるのは嬉しいかな」
マル「ステラ、姉ちゃんも顔見たがってるんだが来ても大丈夫か?」
ステラ「もちろん~!シェリアさん会いたい!」
マル「じゃあ連絡しとくわ」
クロード「じゃあステラ……また来るから」
ステラ「うん」
クロード「名前、考えような」
ステラ「そうね!」
クロード「うん……じゃあ、おやすみ……」
ステラ「おやすみ」
クロード「……」
ステラ「……」
クロード「また明日……」
マル「お大事に」
ステラ「ありがとう。お気を付けて~」手を降る

車に戻るクロードとマル

マル「……」
クロード「……」
マル「……まぁ、ほんと無事産まれてよかったよ。おめでとさん」
クロード「……ありがとう」
マル「ますます働かなきゃなぁ」
クロード「……そうだな」
マル「……」意味ありげにクロードを見る
クロード「……なんだ」
マル「お前もかわいいとこあるんだな」
クロード「当然だ」
マル「なんで偉そうに言うんだよ……」
クロード「惚れ直したか」
マル「惚れてる前提かよ……」

クロード「……っはー~…………」脱力して座席に沈み込む
マル「無理して気張んなよな」
クロード「別に平常心だ……」
マル「局着くまで寝てろよ」
クロード「……誰が……」
「……」寝息を立て始める
マル「……」
「(ほんと、憎たらしいけどかわいい奴だよ)」

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〔 2487文字 〕


【場所】#南部
【人物】#クロード #マル
=====================

マル「あ~……ようやく昼メシかぁ……長かったなぁ今日は……」
「(何食うかなぁ今日は肉より魚って気分かn)」背後から首を羽交い締めにされる
「ッグッ」
クロード「マル、吉報だ」
マル「グック……」
クロード「メシに行こう。カルアのダイナー。いいな」
マル「グロ、ド……首っ……」
クロード「おっと失礼、気分が舞い上がっていてつい。さ、行くぞ!」
マル「っはぁ……ふぅ……」
クロード「さっさとしろ!」
「グズグスするなよ!」
マル「わぁったよ!ちくしょう……」

ダイナーにて

マル「んで、どうしたんだよ」
クロード「マル、今日はいつになくいい天気だな……空も澄み渡っている……」
マル「……至って普通だが……なんなら薄曇りウッ」
クロード「まぁ聞けマル」
マル「お前が聞けよ襟を離せ!」
クロード「ステラが妊娠した」
マル「あっ?そりゃあオメデ……」
クロード「そうオメデタだよマル!子供ができたんだ!……っこの感慨……正に吉報と言わずして何といわんや……」
マル「お、おうそうだな、取り合えず襟を離そうな」
クロード「今か今かと待ち望んではいたもののいざその時が来ると果たして立派な父親になれるのか、と情けなくも不安がよぎるものだな……」
「でも嬉しい!」
マル(襟を掴む手を外しつつ)「お前さんにも一端の人間みたいな葛藤があって俺も嬉しいよ……」
クロード「予定日は12月になるらしい。冬生まれだな。まだ性別は分からないんだがステラはきっと男の子だと言う。彼女の勘は当たるから多分男の子だろう」
マル「(目ぇ、キラキラさせやがって……)」
クロード「どっちに似るかな。髪色は目の色は。ステラに似たら男の子でもそれはそれは可愛いだろうな」レモネードを高速でかき混ぜ続けている
マル「そうだな。俺としても奥さん似のほうが安牌だな」

突然クロードが机を叩く

マル「ぅえっ!悪ぃ……」
クロード「家をさ!ファミリータイプに引っ越さないといけないんだよ!」真剣な眼差し
マル「あ、ああそれもそうだな……」
クロード「庭付きだよなやっぱり……ウッドデッキがあって屋根裏があって……」
マル「夢が広がるな」
クロード「ただステラがつわりで辛そうなんだよ……!」
マル「ああ~……俺の姉ちゃんも死ぬほどしんどかったって言ってたっけな」
クロード「そうかマル!であればお姉さんの連絡先を教えてくれないか。ステラは両親を亡くしているし俺も頼る宛が無いから身近な経験者が何より必要なんだ!」
マル「お、おう姉ちゃんに聞いてみるよ……」
クロード「よかった!お前の血縁でも無事子孫を残せた身内がいたんだな!お前もこれで安泰だな!」
マル「クロードお前めでたい話に舞い上がってるからとはいえそりゃあんまり……」
クロード「安心しろマル、お前の見てくれは内面を知るものにとって些事だと俺はちゃんと分かっているからな」
マル「……そりゃありがとよ……」
クロード「ということで、俺はしばらく定時で上がらせてもらうようテッドに掛け合ってるから、皺寄せが行くと思うが頼むな」
マル「急に実務的な話になったな……そりゃお前んとこの事情を考えたらしょうがないだろ、しっかり奥さん支えてやれよ」
クロード「ありがとう。お前も早く内面重視の女と出会えるといいな」
マル「ご心配ドーモ!」

クロード「ところでつわり中でも食べられるものって何があるのかお姉さんに聞きたいんだが、お前も何か聞いてないか?どうやら船酔い的な感覚らしいんだが、あのなんでも食えるのが自慢のステラがそれもこれも受け付けなくて見ているこっちも辛いんだ……医者は今体重が減っても問題ないと言うんだが心配で心配で心配で」
マル「ああー……姉ちゃんは確か……みずみずしい果物なら食べやすかったっつってたかな……」
クロード(手帳に書き込みつつ)「妊娠したら子供が生まれるまで楽しみに待つばかりと思っていた自分が愚かで嘆かわしい。ステラは毎日青い顔して横になってるっていうのに俺は浮かれるばかりで……」
マル「世の父親なんてそんなもんじゃねぇの。お前さんも人の子だったってことだ」
クロード「好きだった酒も当面飲めなくなったのが何より辛いらしい……」
マル「そりゃあ酒飲みには辛かろうな」
クロード「俺は当面のスキンシップが制限されたことが密かに辛いんだが……」
マル「スキンシップ?」
クロード「安定期まで夜の営み禁止なんだそうだ」
マル「おう……なるほどな?」
クロード「今は具合が悪いのが見てとれるからさすがにその気も起きないが、安定期まであと数ヶ月と言われると正直……」
マル「お、おう……まあそのなんだ……奥さんと、上手くやれな」
クロード「おっと失礼、マルに持ちかけるには酷な相談だったな。独り身相手に気が利かずにスマンスマン」
マル「おめぇよ……俺には何言っても許されると思ってるだろ」
クロード「違うのか?」
マル「ちっ……違うだろそりゃ!人をなんだと思ってやがる井戸じゃねえんだぞ」
クロード「王さまの耳はロバの耳か」
マル「大体俺以外にも相談相手くらいいるだろ。なんだよサンドバッグにでもしたいのか?」
クロード「そんなまさか」
マル「俺のモテなさを笑って溜飲下げるのが目的か」

クロード「マル、聞いてくれ。」
マル「……なんだよ」
クロード「お前は俺の大事な友人だ。今回の件、いの一番に知らせたかった。」
マル「……」
クロード「お前はこんな俺に付き合ってくれるドの過ぎたお人好しだ。腹を割って話せる、数少ない相手だ。」
マル「そ、そうかよ……」
クロード「だから決していじって溜飲を下げたいなんていう短絡的な理由で昼食に誘ったんじゃない。ただお前をからかって怒らせてリアクションを楽しみたかっただけなんだ。純粋に。」
マル「……」
クロード「理解してもらえたかな」
マル「いや全然」
クロード「ならよかった」
マル「えっ今会話になってたか?」
クロード「おっとそろそろ戻らないと昼休みが終わるな。先に会計しているぞ。グズグスするなよ」
マル「……っくそ勝手気まま野郎、まてコラ!」

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〔 2592文字 〕