【保管庫閲覧規則】


1.保管物一切の外部持ち出しを禁ず。
2.編纂室を通さない保管物の改竄を禁ず。
3.保管庫は原則を公開書架とし自由閲覧を許可する。


※保管物の全ては編纂室による架空世界の集積記録であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
※一部保管物には、暴力・死・精神的衝撃、ならびに軽度の性表現・性暴力・虐待を想起させる描写が含まれる可能性があります。
※観測した事象の変遷により保管物に再編纂が生じる可能性があります。
※保管庫内は文書保存の観点より低湿度に維持されています。閲覧に際し眼または咽喉に乾きを覚えた場合は、適宜休息及び水分補給を推奨します。


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【編纂室責任者】蓮賀ミツヨシ


【場所】#南部
【人物】#ネクロ #テル #ニコ #サーリー #ザフィーラ
=====================

テル「はぁ……」

ネクロ「どうした」
テル「いや……南部の戦力分配で…外部組織が絡むので最適化が難しく……果たしてこの報告書の内容がどこまで信頼できるのか……」
ネクロ「そういやお前現地はまだだったな。そろそろあちらも頃合いか」
テル「え……?」

ネクロ「行くか。白銀郷(はくぎんきょう)



南本部にて
サーリー「ヤァ総長!アネには言付けしたぞ。アネはお前達をいつでも迎え入れル」

ネクロ「サーリー、感謝する」
サーリー「それにしても相変わらず小さいなお前達!何を食べたらそうなル?」
テル「食べて小さくなるって表現はあんまりしないですねサーリーさん……」

ニコ「ちょいちょいちょいちょい、東の皆さん」

ネクロ、近付いてきたニコを見る

ニコ「遠路遥々ようこそだけど、俺通さずに族長に面会しないでくれる?俺が本部長なんだけど」
ネクロ「これは失礼。南本部は本部長への連携がなっていないのを失念していた」
ニコ「分かっててやってるだろこのボンボンの青二才……」
ネクロ「今のは特別に聞き逃してやろう。ダウド南本部長」
ニコ「偉そうに……」
ネクロ「偉いからな。知らなかったのか?」

テル「というかサーリーさんを使いこなせてないあなたに問題があるのではないですか?」
ニコ「言うねぇアズラ・タル」
テル「南は民族偏見のない拓けた土地ではなかったですかね」
ニコ「いくら寛容がウリでも急に出てきた若造に上からこられて納得できる隊員ばかりじゃないんだよ羊飼い」
テル「なるほど、とりあえずメンチを切って威嚇の文化が残るのがこちらの特色という訳ですね?南部が最も田舎と言われる由縁を体現いただきありがとうございます」
ニコ「口の減らないガキ共が……」
サーリー「その辺にしろニコ、大人げない。ガキはお前のほうだぞ」

ニコ「サーリー、元はといえばお前が……!」
サーリー「ニコ、我々はこの土地の平穏を求めて手を取り合った同士。そうだな?」
「そこに本来上も下もない。我々は対等で、互いを尊重し合う」
ニコ「…………」
サーリー「お前の功名心はアネも高く評価していルがな!実に森人(もりびと)らしいと!ハハハ!」

ネクロ「いい副長を持っているな」
ニコ「嫌味をどうも」
ネクロ「なんだかんだ、難しい立ち回りをよくこなして貰っている」
ニコ「へぇ、お褒めに預かり光栄ですね。褒賞はその椅子でいいですよ」

サーリー「出立は日暮れだ」「夜は冷えル。暖かくしておけ」

====
ニコ「……で、なんで連絡しなかった?」
サーリー「忘れていた!」
====

日暮れ

旅支度で商人から買い付けしているサーリー
サーリー「なつめやしの実、駱駝(らくだ)乳のバター、干し肉、干し貝、干し魚、酒、水、缶詰、スパイス全種類、駱駝4頭に積めルだけ。支払い、護衛部南本部ニコ・ダウド」

テル「日暮れから出て危なくはないので?」
ネクロ「今日は満月だからな。ちょうどいい」

民族服の男「サーリー!」
サーリー「ザーヒル!」
「迎えだ。郷まで同行すル」

白砂漠の入り口へ着く
砂漠が光り輝いている


テル「わー……」「砂漠が青白く光ってる……」
ネクロ「白い砂が光を反射する。中心に行くほど純度が高い」
「昼間だと眩し過ぎて却って危険だ」

サーリー「駱駝に乗れルか?高原人(こうげんびと)
テル「の、乗れますよ……!」

テル、どうにか駱駝を座らせ上にまたがる
駱駝が立ち上がるととても高い

そしてテルの乗った駱駝が道を逸れていく


ネクロ「どこへ行く」
テル「駱駝に聞いて下さい」
ネクロ「お前が操縦すんだよ……」

サーリー「ドンクサイ高原人。ならお前たちは小さいから二人で一頭に乗ればいい」

テル「……小さい小さいって……」
ネクロ「奴らからしたらそうだろうから仕方ない」
「ラハールの男は軒並み背が高いからな」
テル「白砂漠の先住民族ですよね?そんなに食生活に恵まれているとは思えないんですが」
ネクロ「それは奴らの文化によるところが大きい」
テル「文化?」
ネクロ「ラハールは女系社会で、全ての決定権を女が持つ」
「まぁ着いてみれば分かる」

満月に照らされる白銀の砂漠を行く4頭の駱駝

テル「一面砂しかないですね……」
ネクロ「国内一の面積だからな」
サーリー「ここで少し休憩すルぞ」

僅かに草木が生えた場所で駱駝を休ませる

砂を手に取るテル

テル「(サラサラだ……)」
ネクロ「粒子が細かい」
「これのお陰で車輛は砂を喰って走れなくなるし、銃火器も原始的なもの以外は軒並み動作不良だ」
「だからここでは未だに足は駱駝で、武器は弓矢や槍や剣や石」

テル「……時間が止まっているようですね……」
サーリー「ここは我々の故郷であり聖域なのだ」
「悠久の時を経ても変わらない、精霊の住まう土地だ」

サーリー「森人たちは樹こそ永遠の存在であルと崇めていルが、それは違う」
「樹はいずれ枯れル。水がなければならない」
「砂は違う。ただ砂として、そこに永遠にあル」
「この地こそが尊き永遠の世界」

テル「……精霊が住んでいるんですか?」
サーリー「そこかしこに」
「サァ行こうか。白銀郷はもうすぐだ」



白い日干し煉瓦で造られた要塞(カスバ)に着く

テル「御伽噺の都のようですね」
ネクロ「ここは青のラハラの拠点だ。青陣営は護衛部と共助関係にある」
テル「ああ、確か赤陣営は……」
女「サーリー!」背の高い筋肉質な若い女が駆け寄ってくる

サーリー「アーヤ!」
アーヤ「《元気にしていたか!》」
サーリー「《お前もな》」
サーリー「いとこのアーヤだ」
アーヤ「お前が今の総長か」
ネクロ「世話になる」
アーヤ「森では小さい奴にも容赦がないな!その足の長さでは遠かったろう!」
テル「…………」

アーヤ「族長がお待ちだ!ついて来い!」

要塞の中を歩く一行

テル「(行商がこんなに……)」
ネクロ「ここは白砂漠の中継地点として、古来から交易で栄えてきた」
「ラハールの主な生業はこの"交易"と砂漠の"渡し"と"傭兵稼業"。長らく南部のフォレス人と対立し民族間衝突が絶えなかったが、現族長が先々代と協定を交わし、そこからは共助関係を結んでいる」
テル「(先々代……)」
ネクロ「俺が初めてここに来たのは8年前だ。それから何度か来訪している」

長身で屈強な女戦士たちの合間を行く
天蓋の奥に水煙草をくゆらす女性がいる


ザフィーラ「よく来た。ガストの子、ネクロ。護衛部隊7代総長」

ネクロ「青のラハラ族長ザフィーラ。歓待に感謝する」

ザフィーラ「くつろげ。サーリー」
ネクロたちの手には盃が運ばれる

サーリー「《アネ》」
ザフィーラ「《息災か。我が美しき甥》」
サーリー「《変わりなく》」
ザフィーラ「《うむ。たまにはゆっくりと羽根を伸ばせよ》」
サーリー「《はい。ありがたく》」

ザフィーラ、向き直り

ザフィーラ「お前、新顔だな。傷の小僧」テルに向かって
テル「……!えっ……と……」
ネクロ「父母は高原のティディク。生まれはアルバフォレス。テレジク・ラオ・キフロ。護衛部参謀。俺の"目"だ」
テル「…………」
ザフィーラ「《蒼き草原の民(アズラ・タル)》か。草木の生えぬ最果ての地へよくぞ来た」
「盃を」

盃に液体が注がれる

ザフィーラ「古き友の来訪で上機嫌な風の精霊に」

一同飲み干す

テル「(!……水だ……)」
ザフィーラ「さぁさ飲まれよ」また液体が注がれる

ネクロ「……ペースに気をつけろよ」
テル「え?」

テル「(……アレッ?ちょっとアルコール臭が……)」また注がれる

ザフィーラ「他の兄弟達は息災か」
ネクロ「ああ。変わりない」
ザフィーラ「それで、弟はいつ連れてくる。もうそろそろいい歳頃だろう」
ネクロ「……それは断ったはずだが……」
ザフィーラ「風の噂に聞いておるぞ。見目麗しい戦士の子。ラハールの血に相応しい」
「女たちが手ぐすね引いて待っておる」
ネクロ「悪いがルイは献上品じゃないんだ。承諾できない」
ザフィーラ「固いことを言うな。我々の関係を強固にするのにこれ程有意な提案もあるまい?」
「ガストもそうだ。あの男……結局血を残さずに勿体ない……私が5人は産んでやったのに……」

テル「ゴフッ」吹き出す
ネクロ「……」

サーリー「ハハハ、アネはあの男が気に入っていたからいつまでもその話をすルな」
ザフィーラ「森人には珍しくいい男だった。全く勿体ない……」
女戦士「族長の好みはちょっと変わってる」
テル「…………」
ネクロ「…………」

ザフィーラ「私の懇願を無下にした上で護衛部との共助を取り付けたのだ。お前の父は食えない狼だった」
ネクロ「……」

ザフィーラ「お前ももう少し背丈が伸びて顔色も良くなればと思ったが……その健気さと父に免じて2~3人子を残していってもいいぞ」
ネクロ「謹んでお断りする」

テル「(小声で)ラハールジョークなんです……?」
ネクロ「……本気で言っている」
「お前程々にしとけよ」
テル「えっ?」
ネクロ「酔い潰れると食われるぞ」
テル「はぁ!?」

ザフィーラ「私の前で何をコソコソと。ガストの子ネクロ。お前まだ独り身だそうだな」
ネクロ「そうだが……」
ザフィーラ「お前も奴と同じで男が好きなんだろう。そいつはお前の愛妾だな」
テル「エッホ!」
ネクロ「違う」
ザフィーラ「なら私の提案を受け入れろ」
ネクロ「無茶言うな……無理なもんは無理だ……」
女戦士「族長はフラれたのいつまでも根に持ってる。八つ当たり」
サーリー「アネ、追い過ぎルと余計逃げられル。もっとじっくり詰めねば」
ザフィーラ「そうだな……」
ネクロ「……そろそろお暇する……」
テル「ごちそうさまでした……!」

あてがわれた部屋に向かう二人
明るいので灯りは持たない


テル「酒と煙でくらくらする……」
ネクロ「段々濃い酒を注いでくるんだ。最初は薄いから油断する」

ネクロ「ここでは外から奴らのお眼鏡にかなう男の血を入れて世代を繋いでいる」
テル「だからやたら背の高い美形が多いってことですか?」
ネクロ「そうだ」
「戦士として表立って働くのは女で、ここで生まれた男は主に下働きとして女に仕える」
「子を産めない女も男と同じように扱われる」
テル「階級社会ですね……」
ネクロ「護衛部は隊員を男に限っているから、族長代理として甥のサーリーが南本部に配置されているが、権威のある女の親族以外の男の地位は最底辺だな。中で子を残せる男もそういった一握りの層だけだ」

テル「さっきの食われるってのは……?僕あの感じだと取り込む対象外っぽかったですけど……」
ラハラの男「森人」

ラハラの男「イイモノアルヨ、オイデオイデ、チョットダケ」物陰から手招きしている

テル「はい?」
ラハラの男「ダイジョブダイジョブ、オモイデイタクナイ~」
テル「???」
ネクロ「《断る》」テルの前に出る
ラハラの男「《いいだろ、減るもんじゃなし》」
ネクロ「《失せろ》《触れればその指切り落とす》」

しぶしぶ男は立ち去る

テル「……い、今のは……」
ネクロ「そういうことだ」

ネクロ「内部でやるとトラブルになるが、外部の人間相手なら問題ないと。一夜の火遊びってやつだな」
「見ての通り一面砂の海でロクに娯楽もないからな。食われたくなかったら俺から離れるなよ」
テル「言われなくても離れません……!」

ネクロ「ザフィーラには6人の子がいるが全員種が違うらしい。でも奴らにとって外の男は種鞘以外の何物でもなく、子は労働力であり戦力で、これがこの地で連綿と紡がれてきた奴らの文化だ」
以下蒸し風呂に案内され入り、部屋でお茶して、テルが個室を案内されびびってネクロの部屋に寝具を持ち込んで寝るまでの流れを描きつつ
テル「…………」

ネクロ「ただああ見えてザフィーラは革新的なラハラで、知見も広く語学にも堪能で話が分かる方だ」
「だからこそ共助に承諾もした」
テル「総長、さっき話通じてました……?」
ネクロ「あの手の話題には根気強く対応するしかない」
「一昔前なら事前交渉なんてされずに槍で床に縫い付けられてその場で食われ、用が済んだら家畜の餌にされてたらしい」
テル「怪談じゃないですか……!!」「御伽の世界とか言った僕が浅はかでしたよ……」
ネクロ「まぁ…それぐらい過酷な環境に暮らしているということだ」

テル「別の場所に移り住めばいいんじゃ……」
ネクロ「……それができる奴ばかりじゃないし、それが幸福とも限らないと知っているだろう。奴らはこの地を最果てと呼びながらも、精霊に愛された永遠の都だと信じている」
テル「…………」

要塞都市からの景色を見る二人



翌日・昼
外壁上部の回廊にて


テル「青のラハラの戦力評価は概ね完了しました」
「機動力の高い駱駝兵。旧時代的ではありますが火器も保有。個々の身体能力も高く、上流階級層の持つ知識量も予想以上でしたね」
ネクロ「都市部の寄宿学校を出た娘もいるからな」
「ザフィーラは徐々にここを外に開こうとしている」
テル「……そういえば、頃合いだとか言ってましたが、あれはどういう……」

ザフィーラ「仕事は進んでいるか」
ザフィーラが従者を連れて立ち寄る

ネクロ「ああ」
ザフィーラ「お前の目玉、お前に一晩中張り付いていたらしいな。愛妾じゃないなら赤子だの」
ネクロ「勘弁してやってくれ。まだ女も知らない」
女従者「おや可愛い。味見したい」
テル「(ヒィ)」

ザフィーラ「森はどうだ。少しは住みよくなってきたか」
ネクロ「……どうだかな……そうあるよう努めているが……」
ザフィーラ「変わる事は難儀よの」
「この白砂(はくさ)の海も日々その模様を変えてはいくが、その本質は変わらぬ」
「そして私も、他の人間と同じように老いていく」
「私の任期は今年が最後になるだろう」
ネクロ「……そうか」「後継は」
ザフィーラ「娘のファナト」「今は街に出て商業を学んでいる」
「我々はこの地を離れはしない。だが、生き方はいずれ変えゆかねばならない」
「だから、私の代で赤の陣営との決着を着けるつもりだ」
「何代も遺恨を残してはいられない。ファナトには新しい白銀郷を率いて貰いたいのだ」
ネクロ「……」

ザフィーラ「その探りで来たのだろ?ガストの子ネクロ」

ネクロ「……」
テル「……」
ネクロ「護衛部には梢外地域の治安保全に従事する責務がある」
「そこに問題が生じようとしているのなら、看過はできない」
「……ただ自治区内の事であれば、基本的には住民の判断を尊重する」
「また、青のラハラへ被害が及ぶ懸念があれば、当然我々の部隊を派兵する」
「共助の協定に基づいて」
ザフィーラ「…………」ネクロの口上に目を細めている

ネクロ「止めはしない」
「ただ青から手は出すな。俺達が動きにくくなる」
ザフィーラ「分かっておる」
ネクロ「……骨くらいは拾ってやる」
ザフィーラ「カカカ!」
「その物言い、昔のままだの」

ザフィーラ、ネクロの正面に立ち、かがむ
ネクロの頬に手を添え小声で


ザフィーラ「私の骨を拾ったら、ひと欠片、あの男の墓の脇に埋めてくれ」
ネクロ「」
ザフィーラ「葬儀に出られなかった事、ひどく悔やんだぞ」笑顔

立ち去りつつ

ザフィーラ「日取りが決まれば知らせを出そう」


その背を見送る二人

テル「族長……本当に先々代の事……」
ネクロ「あいつらにとって外の男は種鞘だと言ったな」
テル「ええ……」
ネクロ「必要なのはコミュニティーを強化する為の種であり、そこに個人の嗜好を挟む余地はない」
「ましてや族長一族となれば、自由恋愛など許されない」
「そんな中たまたま出会った好みの相手が周囲を納得させられる肩書持ちなら喜ぶのも自然なことだろう」

かつてのガストを口説くザフィーラの回想

テル「そういえば、ここでは結婚制度はないんですか?」
ネクロ「ない。子も財産も全てはコミュニティーの為のものになる。ただ最近は外の知見を得て少しずつ取り入れる動きもあるようだな」

テル「……ついでにずっと思ってた事言ってもいいですか?」
ネクロ「なんだ」
テル「総長ここならヤりたい放題じゃないですか?なんではしゃいでないんですか?」
ネクロ「よく言ってくれたなこの流れで」

テル「いやだって実際綺麗な方が多いですし、そういうの好きな人ならwin-winというか……今は家畜の餌にはされないんですよね?」
ネクロ「種を無責任にばら撒くなんてのは俺の主義とは真逆の価値観だ」
「俺は余計なことを考えずにただコミュニケーションの一環としてそれに耽りたいだけなんだよ」迫真
テル「そ、そうですか……」
ネクロ「大体俺に四六時中張り付いておきながらよく言う……」
テル「確かに離れられても困りますがそのまま強行されても困りますね……」
ネクロ「馬鹿か……」

城壁から階段を降り
武器屋等の前を歩いていく


テル「赤陣営は青との敵対関係にあるんですよね」
ネクロ「そうだ。赤は過激保守の集まりで、ザフィーラの方針に反対している」
「古来からのやり方に倣い、砂漠を渡るキャラバンを襲い、金品を奪い女子供を攫う」
「この町の武装は赤陣営との交戦の為のものだ」
テル「赤陣営に南本部は関与できないんですか?」
ネクロ「あくまで白砂漠内でのこととなると、自治権によって深入りできないのと、あとは単純に俺達の装備じゃ……」

カンカンカンカン(警報の鐘)

アーヤ「襲撃だ!建物の中へ!」
テル「襲撃……!?」避難しつつ高めの位置へ移動
ネクロ「ちょうどいい。お前よく見ておけ」
「白砂漠での戦闘がどんなものかを」

強い日差しの元、
白い戦闘用駱駝に乗った赤陣営の戦士が砂丘の向こうから現れる
駱駝の目元には日除けが施され、戦士は真っ白のローブを着ている

その場に赤い旗を突き刺すと、戦士が片腕を上げる
背後から複数の同様の駱駝兵が現れる
駱駝が駆け出す


テル「速い……!」
ネクロ「戦闘用駱駝だ。持久力よりも速さを重視して交配されている」
「この環境下では最も機動力が高い生き物だ」
「うちでも保有してるがここまでの性能じゃない」

駱駝兵が散開し、一部の戦士が駱駝から降りると、駱駝はその場に座り込む
その背に銃砲が備わっている


テル「山砲(さんぽう)……!!」
ネクロ「《スズメバチ》!」
「少し下がるぞ」
「前はクロスボウだけだった。どっからか武器を仕入れてやがる……」

ドォン…!(外壁に着弾する)

テル「砂漠地帯特化型武装車輛(テクニカル)!」
ネクロ「大体この手の勢力に加担するのは北壁と相場が決まっているが……」避難しつつ
テル「駱駝兵となると砂宮のほうがノウハウがありますね」
ネクロ「南部は港があるからな……中央政府の目をかいくぐって武器が流入している可能性も高い……」
テル「そうなると自治区外の案件で介入できますよね?」
ネクロ「尻尾が掴めればだが…、」目の前に着弾する

びっくりして立ち止まっている二人の前にザフィーラが現れる

ザフィーラ「おっと、こんなところで死んでくれるなよガストの子」

ネクロ「ザフィーラ、落ち着いているな」
ザフィーラ「まぁいつものことよ」
「あれは強請りだ。食料や金品を寄越せと言っているのだ」
「愚かな元同胞(はらから)よ」
アーヤ「《放て!!》」ザフィーラの背後で腕を振り下ろす

青陣営から数多のクロスボウが放たれる
散り散りに砂に消える赤陣営の駱駝兵


テル「(眩しくてよく見えない……!地面の起伏も真っ白で分かりにくい……天然の塹壕だらけだ)」
ネクロ「……多分お前の方が俺よりは見えている」
「俺には明る過ぎて目がやられる……」
「ゴーグルを着けたところでガラス質の砂で傷付いてすぐに曇る」
テル「…………」
ネクロ「風の味方した昼間の戦闘はラハールの独壇場だ」

青陣営の駱駝兵が出撃する
槍を手にしている

ドォン…!

どこからか山砲が放たれる


アーヤ「《煙の根を狙え!》」
ネクロ「煙の出所を狙えと」
テル「(そうだ。連射はできない)」

青の戦士が槍を投げる
山砲を積んだ赤の駱駝兵が走り出す


ザフィーラ「《無粋な火薬を振りまいた事、後悔させてやる》」

クロスボウを構え、放つ
駱駝に突き刺さる
乗っていた戦士は別の戦士の駱駝に乗り逃げ出す

戦闘が終わり、青の戦士も引き上げてくる
負傷者が何人かいる


ネクロ「救護を手伝う」
ザフィーラ「ああ、頼む」

テルが砂漠に目をやると、傷ついた駱駝が女戦士によって止めを刺されている
白砂漠に溢れ出た血が滲みていく


サーリー「あれは砂の精霊に血を捧げたのち食べル」
「筋張っていてあまり旨くもないがな」
テル「……」
サーリー「かつて我々は白砂漠のそこかしこをああして赤で染めていた」
「しかしもう辞めたのだ。だから我々は地と対になル空の青を名乗った」
テル「……」
サーリー「お前達の青とは少し違っていルかな」


負傷した女戦士「いつつ……」
ネクロ「骨は大丈夫そうだ」手当しつつ
負傷した女戦士「ありがとう……あたしはサナー……今夜待ってるよ……」
ネクロ「こんな時くらい安静にしてろ」呆れ
「……フォレス語が話せるんだな」
サナー「皆ザフィーラに教わっているのさ……これからの時代は必要だ、ってね……」
ネクロ「…………」
サナー「なに、あたしは全然大丈夫だ!遠慮せず来てくれ!」
ネクロ「悪いがさっきのは断ったんだ」

外壁を見ているテル

ネクロ「……何か得られたか」
テル「撃ってきたのは散弾ですね。火力も充分で、包囲されたらひとたまりもないかと」
「赤の陣地はどの辺りに?」
ネクロ「赤陣営は固定拠点を持たない。テントで移動しながら生活している」
テル「それは厄介ですね……」
ネクロ「基本的には防戦だ」「ただ、ザフィーラが決着をつけると言うからには……」
テル「攻め入ると?」
ネクロ「頭領首が欲しいだろうからな」
テル「相手陣営の戦力把握はできているんです?」
ネクロ「……不十分だろうな……」
テル「攻め入るのは得策ではありませんね」

テル「あの機動力を見るに必ず取り逃がしが出るでしょう」
「それなら煽って主力を待ち受ける方が確実です」
「その間に裏から敵拠点を叩けると一番ですね」

ネクロ「具体的には」
テル「因縁の対決とあれば煽るのは族長がどうとでもできるでしょう」
「うちから狙撃兵を要塞内に配備します。屋内であれば短時間運用ならさほど砂塵の影響はないでしょう」
「確かに真昼の白砂漠での彼らの迷彩には驚きましたが、事前に対処すればさほどの脅威ではないです」
ネクロ「……」
テル「開幕、ペイント弾でマーキングするんです」
「使うなら青ですね。彼らの精神を逆撫でて優位に立てると思います」
「これならばこちらの過剰介入とならず青陣営を後押しできるかと」

テル「あとは取りこぼしについてです。後々の事を考えるとこちらの方が重要でしょう。大人数が多数の駱駝を連れてテントで生活しているとなると必ず補給が必要になりますね。白砂漠内では作物を生産できる地域はごく僅かとなれば、いずれかのオアシスから仕入れルートが伸びていることになります。しばらく各オアシス拠点に諜報を置いて赤陣営と繋がりのある業者を抑え、そこから辿っていきましょう。こうした事態に備えルートは複数確保しているでしょう。
赤陣営内部でも全貌を把握しているのは一握りの幹部でしょうから、下っ端を捕まえて吐かせるというのは効率が悪いです。ルートから暫定拠点が辿れたら物資の供給を絞らせ、焦れた都市部の仲間が動き出すのを待ちます。
外に住む協力者を押さえたのち、主力の出陣後に弱体化しているであろう残留組を丸ごと捕捉したらいいです。残留組の中に捕虜として交渉材料になる人物がいるかもしれません。そうすれば尚優位に進行できますね」

テル「いかがですか?」
ネクロ「……お前はどうしてそう攻撃的思考回路がよく回るんだ……」
テル「それは自分達を陥れたフォレス人を殲滅する方法を日々シュミレートしていたからですかね」
ネクロ「…………」
テル「もちろん過去の話ですよ。今はそんなこと考えもしません……尊敬できる人も大勢いますし、簡単に一括りにできないことはよく分かっていますので」
ネクロ「…………」
テル「あと単純に考えるのが好きなんです」
「ただ総長もご存知の通り僕はまだまだ実戦経験が足りないので……実際どこまで上手くいくかは分かりませんけど」



ザフィーラ「なんだ、もっといればよいのに」
ネクロ「他の仕事もあるからな」
サーリー「アーヤ!」
アーヤ「サーリー!元気でな!」ハグ(ただの仲良し)


白銀郷を後にする一行
行きと同じくネクロの後ろで二人乗りするテル
サーリーの駱駝が先行する


ネクロ「お前の策についてだが……」
テル「はい」
ネクロ「前半は却下だ。ザフィーラが許さないだろう。青の族長としてのプライドがある」
テル「…………」
ネクロ「因縁の決着とあれば無傷で済まない覚悟はある。過剰なお膳立ては水を差すことになる」
テル「…………」

ネクロ「ただ後半はすぐに着手させる。こちらとしても武器の流入ルートを辿りたい。赤陣営の拠点の規模や動きを掴めるだけでもかなりの収穫になるだろう」
テル「…はい」
ネクロ「…却下するとは言ったが狙撃兵の配置はする。ザフィーラにもしものことがあれば共助協定に影響が出る可能性もある」
テル「…………」
ネクロ「そこは”ガストの子”として強行させて貰う。俺の手札だ」
テル「…………」

テル、僅かに俯く
空には満点の星が広がっている


テル「やっぱり貴方のやり方は真似できないですね」
ネクロ「当然だろう。立場が違う」
「真似する必要なんてない。お前はお前のままでいい」
テル「…………はい」



後日
南本部からの入電


ニコ『赤陣営の仕入れルートが掴めましたよ』
ネクロ「どちら(・・・)だ」
ニコ『《スズメバチ》の兵装は砂宮からでした。本国は開き直るから叩いてもしょうがないですが関連業者は全部あたって潰してます。しばらくは大人しくなるでしょう』
『ザフィーラは来月頭に赤陣営へ決闘状を出すとのことです。負ければ青の拠点を明け渡すと』

ネクロ「…………分かった。こちらも時期に合わせて現地入りする」
ニコ『えぇ~来なくていいですよ。手柄を横取りする気でしょ?』
ネクロ「……そんなもんお前に全部くれてやる。俺は内密訪問でいい」
ニコ『あ、そ~ですかぁ~?じゃ、遠慮なく』ガチャ
ネクロ「…………」


そして決闘の日となった。
事前準備は概ねうまく事が運び、天候は晴れ。微風であり、青陣営は万全の態勢でこの日に挑めたと言えた。
しかし、やはり実戦というのは机上の想定を超えてくるもので。

テル「えっ決闘って頭領同士の一騎打ちじゃないんです?」
サーリー「ワハハ古典的だな!決闘は総力戦だ!誰かが頭領首をとったらいいのだ!」二振りの曲刀を構えつつ

テル「この音ガトリングガン!?駱駝の背に!?」
「あ~~~そうですね小型精密じゃなきゃ砂を喰う影響も小さいですね!!」
「あんなの報告に上がってなかったですよ!南本部諜報!怠慢もいいとこです!!」
ネクロ「落ち着け頭下げろ馬鹿!」

女戦士「《西からの砂塵風!!》」
アーヤ「奴ら風の精霊を味方に付けたんだ!」
テル「精霊精霊って…そんなものどこにいるっていうんですか!!」
「天候操作出来たら訳ないですよ!!」
狙撃隊「砂で何も視えません…!!」
ネクロ「遮蔽物に隠れていろ!窓の位置は捕捉されてる!奴らには見えているぞ!」

要塞から少し離れた地点
剣を手に立つ両陣営の頭領


赤の首領「《ザフィーラ……ラハールの誇りを失った愚かな女……》」
ザフィーラ「《アスアド……結局分かり合うことは叶わなかったな……》」

アスアド「《森人に(こうべ)を垂れて楽しいか……一族の恥知らずめ》」
ザフィーラ「《アニこそ、盲目で居続けるのは辛くはないのか……》」
「《時代は流れているのだ……いくらこの白砂の海が変わらずにあろうとも……》」

要塞付近

サナー「…………」致命傷を負っている
ネクロ「クソ……」救命を試みている
サナー「あたし…は、ここまで…だな…戦って、死ぬ…戦士の…誉れ、だ……」
「…でも……ちょっと、だけ…森で暮らして…みたかった…」震えながら手を伸ばす
ネクロ「…………」手を握り
サナー「ああ、あんたに、見送られる、なんて……へ、部屋に、へへ…来て、欲しかった、なぁ……」
ネクロ「………………」

その様子を伺っていたテル
近付き、ネクロの肩先にそっと触れる

テル「……貴方の傷になります」

その手を払い退け、俯くネクロ

テル「…………」
護衛部隊員「部隊の被害状況報告を」駆け寄り
テル「はい」踵を返す



族長の部屋

ネクロ「…………結果的には」

包帯を巻かれながらも水煙草を吹かすザフィーラ

ネクロ「勝ったか……」
ザフィーラ「私を誰だと思っておる……」

白い砂の上に残されたアスアドの身体は首を失っている

ザフィーラ「戦士として生きながら6人産んだのだ。奴とは修羅場を潜った数が違うわ」
「こちらも無傷とはいかなかったが、先々を思えば大したことはない」
「護衛部もよく働いてくれたな」
「よくよく(ねぎら)ってやれ」

ザフィーラ「……これで名実共に隠居の身よ……」
「流石に少し疲れた……」
ネクロ「…………」

ザフィーラ「骨の件は一先ずお預けだな……」
ネクロ「当分先にしてくれ……」

ザフィーラ「カカカ!」
「ではお前もそれまで生き永らえねばな」
ネクロ「…」

ザフィーラ「ガストの子ネクロ。覚えていろよ。息災でな」



白銀郷を後にする護衛部一行

ネクロ「…………」
テル「…………」また二人乗りしている
ネクロ「…今回の戦闘の評価は」前を向いたまま
テル「……隊員の死者はなく、赤陣営は壊滅、青の族長も生還、危うい場面もありましたが、結果的には作戦成功と言えるでしょう」
ネクロ「……そうだな……」
テル「…………」
ネクロ「……いい経験になったか」
テル「はい」
ネクロ「……………」

テル「総長……」
「いい経験に……己の糧にしなくては、前に進んではいけないですよね?」
「死を悼んでも、そこから立ち上がり、足を踏み出していかなくては」
「自分の道は、彼女らの道とは違うのだから」

テル「……僕は、間違っているでしょうか……」

ネクロ「……お前は間違っていない……」
テル「…………貴方だって、きっと間違ってはいないですよ……」

帰還するキャラバンの遠景


白砂漠の出口で護衛部のジープが待っている

ニコ「あれ?総長いらしてたんですか~?いつの間に~」しらじらしい
ネクロ「…………」
ニコ「観光ですか?気楽なもんですね。羨ましいなぁ~俺も偉くなりたいもんだな~」
テル「ダウド本部長、今はちょっと……」

ニコ「本部まで送りますからとっとと乗って下さいよ」

車内

ニコ「サーリーから報告は受けてます。お疲れ様でした」
ネクロ「ああ……」
ニコ「赤のアスアドが死んだそうで。噂では奴には20人子供がいるらしくてですねぇ~遺恨が怖いので今一人残らず確保に動いているところです。街で暮らす妻が5人いるだとかでもう大変なんですよ」
ネクロ「捕まえた後どうする」
ニコ「青陣営に差し出します」
ネクロ「…………」
ニコ「自治区の事なんでね」

ニコ「深入りしないのが一番なんですよ」
「何事も程々に」
「互いの流儀を尊重して」

ニコ「あなたにはまだ難しい話だったかな?」
ネクロ「…………」
ニコ「己の無力さを実感したならいつでも椅子からどいて下さいね」
ネクロ「ニコ」

ネクロ「……お前のような奴がいてくれて正直、頼もしい……」
「イワノフがいなくなってから、隊で俺を表立って叩いてくれる奴が減った」
「中央政府や報道には散々叩かれても、中の奴から直接言われるのとは訳が違う……」
「今後もよろしく頼む。頼りにしている。ニコ・ダウド南本部長」
ニコ「…………」驚いている

ニコ「オイ参謀、こいつ変なものでも食ったのか?」
テル「色々あってお疲れなんですよ……」


東部へ帰る列車の中

テル「総長」
ネクロ「ん……」
テル「また行きましょうね。白銀郷」
ネクロ「…………」
テル「ザフィーラさん達が勝ち取った、これからの暮らしを見てみたくはないですか?」
ネクロ「…………」

ネクロ「そうだな……」少し笑みを浮かべつつ窓の外を見る


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◆白銀郷編コミカライズイメージラフ

冒頭16P
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ザフィーラとアスアドの対峙

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ラストシーン

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