【保管庫閲覧規則】


1.保管物一切の外部持ち出しを禁ず。
2.編纂室を通さない保管物の改竄を禁ず。
3.保管庫は原則を公開書架とし自由閲覧を許可する。


※保管物の全ては編纂室による架空世界の集積記録であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
※一部保管物には、暴力・死・精神的衝撃、ならびに軽度の性表現・性暴力・虐待を想起させる描写が含まれる可能性があります。
※観測した事象の変遷により保管物に再編纂が生じる可能性があります。
※保管庫内は文書保存の観点より低湿度に維持されています。閲覧に際し眼または咽喉に乾きを覚えた場合は、適宜休息及び水分補給を推奨します。


《編纂室連絡窓口》

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【編纂室責任者】蓮賀ミツヨシ


【場所】#護衛部東本部
【人物】#ガスト #シラー
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東本部執務室
背を向けて立つシラー
部屋には彼一人がいた


シラー「通達の通り、貴公に次期総長としての任命が正式に下った」
「就任決闘に向けて、今後の日程を申し送りする」

ガスト「(このよく整えられた白花色の髪を知っている)」

シラー「……二人きりで会うのは、久し振りだな」
ゆっくりと振り返る
その瞳を見つめる


ガスト「(白磁の肌も、白橡(しろつるばみ)の瞳も)」
「(あの日見た、あの姿が、なぜだか胸の奥に焼き付いている)」

ガスト「……ええ、お久し振りです」
「(しかし彼をなんと呼べばいいのか、未だに分からないままだった)」



あの日、父の自宅を訪れたのはなんでだったか。
特に意味のない、何気ない用事のついでだったかもしれない。
とにかく10歳の俺はその大きな古い煉瓦造りの屋敷を見上げながら、ぐるりと周囲を歩いていた。
そして蔦の這った壁沿いに進むうちにあの庭に行き着いた。

庭の手前にはアンゼリカが一面に咲き乱れていて、
その小さな白花の海の向こうに、その人はいた。

清潔な真っ白のシャツを身に付け、その下の肌も髪もまた白く、細身の木剣を手に立つ、この世のものとは思えない光景の幽玄さに、俺は瞬きを忘れていた。

こちらに向けられた彼の瞳はなぜだか、ひどく哀しげな色をしているように見えた。
お互い何も言葉を発することはないまま、俺は逃げるようにその場を後にした。
彼は後になって思うと確かに、俺の父によく似ていた。

自分の暮らしには、なんの不満も持っていなかった。
明るくおおらかで愛情深い母と、その母を深く愛してくれる裕福な父。
父と一緒に暮らすことは叶わずとも、不自由なく暮らせるよう出来る限りを尽くしてくれたのは子供心に伝わっていた。
俺の容姿は母によく似ており、父はそれを特に喜んだ。
丈夫な子に育っておくれと、よく撫でてもらった記憶がある。

異母兄弟がいるのだと知ったのは随分後になってからだった。
生粋の北部貴族の由緒ある家柄は、その血を守るために同じような貴族との婚姻を結び続けてきた。
それにより薄い色素が受け継がれ、また同時に数多の疾患が生じるようになっていった。
父の婚姻も例に漏れず、愛情の交わされない結婚生活に絶望した父は、使用人だった母との関係に熱中した。
既に正妻との間には2人の息子がおり、父の行動は見過ごされ、強く咎められることはなかった。
噂に聞くと正妻は壮年の侍従頭と懇意の仲だったとのことで、このような状態は北部貴族には珍しくもないものだったのかもしれない。

次に彼と出会ったのはこの花園の邂逅の23年後。
護衛部第4代総長就任式典だった。
3代目総長が初代、2代に続けて短期で不幸に見舞われ、業を煮やした政府が次に選んだのが第一国軍所属のエドゥアルト・シラー。
規律を重んじ職務に私情を滲ませない古式ゆかしい貴族の次男は、政府にとって梢外の要職に置くのにあまりに丁度いい人物だった。

式典以降、彼と二人で話す機会はなかった。
いち部隊長として報告事があっても、必ず彼の脇には補佐官がおり、こちらも変に関わりを匂わすこともしなかった。
自分の生まれに不満はなくとも、エドゥアルトの利点にはならないのだろうということは、あの日の視線で感じ取っていた。
周りの隊員は彼を冷たく情のない機械のような男だと揶揄していたが、俺には、そうは見えなかった。



シラー「貴公が任命を受けたのは他でもない。隊員からの人望があったからだ」
ガスト「…………」
シラー「政府は総長席に貴族を置くことが短命となる所以だと踏み、次代からは市井のものとする算段を練った。2年前のことだ」
ガスト「…………」
シラー「当時から貴公の存在は上の耳に届いていた。現状貴公ほどの適任は他にいないだろう」
ガスト「……貴方は私への"繋ぎ"であったと、そう仰っているのですか……」
シラー「時流に沿った判断だ」
ガスト「貴方が、《白剣》と揶揄されながらもそれを飲み込まれていることも、全て貴方の人徳の深さを表しているに他ならない」
「貴方は、そのように軽んじられていい方ではないはず」
シラー「…………」
ガスト「あの日も、……あの日も剣の研鑽を……」俯きつつ
シラー「……就任決闘では、形ばかりの剣戟に付き合って貰うつもりだが、異論はないな」
ガスト「光栄です…………」俯いたまま

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〔 1889文字 〕