【保管庫閲覧規則】


1.保管物一切の外部持ち出しを禁ず。
2.編纂室を通さない保管物の改竄を禁ず。
3.保管庫は原則を公開書架とし自由閲覧を許可する。


※保管物の全ては編纂室による架空世界の集積記録であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
※一部保管物には、暴力・死・精神的衝撃、ならびに軽度の性表現・性暴力・虐待を想起させる描写が含まれる可能性があります。
※観測した事象の変遷により保管物に再編纂が生じる可能性があります。
※保管庫内は文書保存の観点より低湿度に維持されています。閲覧に際し眼または咽喉に乾きを覚えた場合は、適宜休息及び水分補給を推奨します。


《編纂室連絡窓口》

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【編纂室責任者】蓮賀ミツヨシ


始めに、二人の兄弟がいました。
二人は安住の地を求め世界中を旅していました。

ある日延々と続く砂の海の果てに小さなオアシスを見つけ、
二人はそこで喉を潤し、灼けた肌を木陰で休めました。

翌朝、兄は言いました。

「私はここを安住の地と決めた」

弟は問いました。

「何故こんな小さなオアシスに留まるというのか」
「たちまち枯れてしまうぞ」

兄は答えました。

「美しい少女に出会ったのだ。彼女を護らなくてはならない」

兄が指し示す場所には小さく弱弱しい幼木がありました。

二人の意見は割れ、兄弟はここで道を分かつことになりました。
兄はオアシスに留まり、弟はまだ見ぬ地へと旅立ちます。

弟には、ついぞそれが少女の姿には見えませんでした。



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ネクロ「兄の気が触れた話か」
リベウス「そうとも言えますね」
「大樹教はこれを《弟の信心がなかった》と解釈しています」
「ちなみに文献では特に《兄》《弟》の区別はなく、単に《兄弟》と書かれています」
「《兄》は《アルバ・フォレス》、《弟》は《アズラ・タル》の祖とされ、これも大樹教によるアズラ・タルを下位と見る姿勢の表れですね」

ネクロ「大樹教がろくでもないことはよく分かった」
リベウス「ふふ、そうですねぇ」
「その後兄の留まったオアシスはみるみる栄え、広大な緑の地となり、彼は《エリスの夫》として国を興した…それが当家の始まりと言われています。今から800年程前の事だと伝えられています」
ネクロ「……」
リベウス「その頃には既に西部の古代都市は廃墟となっていたようです」
「壁画には大樹の姿が描かれているので、それもエリスとするならば相当な年月を生きている事になりますが…」

リベウス「ようはオアシスの怪異に魅入られた、ということでしょうね」
ネクロ「仮にも自国のご神体を怪異と…」
リベウス「伝承などでもよくある話です。大抵魅入られた者は精気を吸い取られ干乾びて死にますが、うちのはハッピーエンド版という感じでしょうか」
「ただエリスは今も人の手なしに生きられないのは事実」
「私達は今、干乾びた男の夢の中を生きているのかもしれませんね」
ネクロ「………」

リベウス「今でも稀に人型のエリスを見た、という人が現れます。見た者が年若い乙女なら《宿り巫女》と呼ばれ祀られてきました」
「王家の跡継ぎには必ず夢枕にエリスが立つと言われています」
「しかし私は今のところ一度も見た事はありません」
「彼女の好みではなかったのかもしれませんね」

ネクロ「………」
「ところで、何で初めから”彼女”扱いなんだ?男のパターンはないのか」
リベウス「ああ、それはこの樹が雌株だからですよ」
ネクロ「そこは科学的根拠があるのか…」
リベウス「ただ雄株は見つかってはいません」
「彼女は世界でたった一人で、孤独に耐えかねていたのかもしれません」
ネクロ「………」

リベウス「こうして我々はこの地を見出し、そして囚われた」
「彼女の元を去りまた流浪の旅に出るか、それとも」
ネクロ「………」
リベウス「今ひとたびの選択の時ですね。貴方の目にはここが楽園に映りますか?」

#ネクロ #リベウス
____白樹暦843年 某所にて
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