ロス

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◆ロスとライオネルの邂逅メモ
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#ロス#ライオネル

シーンメモの書き散らかし。




《凪の庵》にまだロスしか居ない頃、深夜親父さんの手伝いで床掃除をしていたロスの前に、血塗れのライオネルを連れたスラッグがやってくる(当時のロスはまだ夜行性気味)。

金は出すので一部屋借りたいと言うスラッグ。
ライオネルの特異性(人狼)に即座に気が付くロス。
そんなロスを見て同じく特異性(吸血鬼)に気付くスラッグ。

「この宿は当たりだな」スラッグは小さく呟き親父との交渉を進める。
「こういう手合いに慣れておられるようだ…」


その後回復したライオネルから執拗に勧誘を受けるロス。
だがどうにもいけすかないので断り続ける。

ライオネル「ロス~!俺らと一緒にひと狩り行こうぜぇ?」
ロス「話しかけるな」
ライオネル「そんなに毛嫌いしなくてもよくね?今は毛、そこまでないし?」
ロス「お前は血の匂いが酷すぎる」
ライオネル「えぇ?そそらねえの?牙の同胞~」
ロス「誰が同胞だ」
スラッグ「随分嫌われているな。同じ夜の住人かと思ったのだが」
ロス「……一緒にしないでくれ」



ジギー加入後。
宿の一階で遠巻きにロスとジギーを眺める二人。

ライオネル「ありゃお連れさん」
スラッグ「見るからに魔術師だな」
ライオネル「随分おキレイなお顔じゃんよ。ロス~景気良さそうだなぁ~(手を振る)」
ロス「(シカト)」
ライオネル「今日も冷てぇ~」
スラッグ「中々仲良くなれないな」
ライオネル「あれ今日のディナーかな。羨ましい。魅了持ちはいいよねぇ」
スラッグ「いくらなんでも常宿には獲物を連れ込まないだろ」
ライオネル「えぇ?じゃあなに?コレ?(小指を立てる)」
スラッグ「さあね…」


後日

ライオネル「ロス~(進行を妨害しつつ)」

ロス「邪魔だ」
ライオネル「あぁ~早くカノジョの元へ戻りたいもんな?」
ロス「(驚き、睨む)」
ライオネル「心配しなくても俺の好みじゃないから手ぇつけたりしねぇよ?俺はやっぱ若い女が一番だなぁ~男なんて固ぇじゃん。まぁ確かに顔は可愛いけどな?澄まし顔って崩し甲斐あるもんなぁ」

ロス「お前が」
ライオネルの襟首を掴み壁に叩き付ける。

ライオネル「おっ」

ロス「もし」「ジギーに何かしたら」「滅ぼしてやる」「跡形もなく」

ライオネル「ヒュー!いい眼だぜロス!その紅!宴の日を思い出して勃っちまいそうだ」
ロス「……」
ライオネル「しかしいいのかぁ?そんな美味しいコト言っちゃって」
「俺はお前の本能曝け出す為なら何でもしたいって心づもりだぜ?」

ロス「お前は」
ライオネル「んん?」

ロス「俺と」「仲良くしたいんだろ」「ライオネル」
瞳が冴え冴えと、紅く冷たい光を帯びる。

ライオネル「(背筋が凍る)」
ロス「……精々気を付けろよ」

ライオネルを残しその場を去る。


ライオネル「……ヒュ~……流石だ同胞……惚れちゃうね……」




=====

ロスと仲間意識から仲良くなりたいが上手くいかない時期。

=====

【ロス視点】


早朝一階に降りると、会いたくもない顔が窓際の席にいた。
宿の親父はまだ出てきておらず、奴と二人きりの空間だった。
無視しようとした背中に、そいつの声が投げ付けられる。


ライオネル「満月の時ってどうしてる?」

ロス「……なんでお前にそんなこと」
ライオネル「いいじゃん、雑談だよ雑談」
ロス「……」
ライオネル「……寂しかったんだぜぇこれまで」
「同じような奴に巡り合うこともできず三年以上」
「あの日からずーっと……」
ロス「……」
ライオネル「……だから、ちょっとだけ相手してくれよ」「な」
ロス「……」

奴は、今まで見たことのないような遠い目で、食堂の床板あたりに視線を落としている。
いつものように口を大きく開かないので鋭い牙は隠れており、口調こそいつも通りだが声の調子に軽薄さがなく、まるで別人のような……恐らく、転化する前の姿のような、そんな様子に、気持ちが揺らぐ。

俺はやっぱり甘いのかもしれない。



ロス「……狩りをしてる」

ぶっきらぼうに答えると、奴はこちらを見て金色の瞳を見開き、わかりやすく驚いた。
そしてすぐにその瞳を弓なりに細め、そのまま再び、そっと視線を落とした。

ライオネル「俺も」



この化け物にはこれまで嫌悪感はあれど仲間意識など感じたことはなかったが、今この空間にある共有感は、決して不快なものではなかった。

人を喰らう側となった元人間。
望まずとも、その血を肉を得なくては生きられない身体。

呪われた者同士が慰め合ったところでどうにもならないが、この日のこの無音と日差しと温度は、世界が自分達を受け入れてくれているような感覚を、僅かながらに感じさせるようなものだった。




ライオネルはてっきりもう、人間への情など切り捨てているのかと思っていた。
だから平気で女子供であっても糧にしているのだと思っていた。


「手を着けたら最後、一片残さず喰うしかねぇ」
「お前みたいに、つまみ食いなんて器用な真似できねぇんだよ」
「この呪われた餓えは」

彼の瞳は元は何色だったのだろう。
餓えた狼へと転化する前の、ヒトであった彼は。

いつもような軽口の向こうに揺れる寂寞。
この悲しい色を俺はよく知っていた。



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自宿SS

24

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2人のイメージでアメジスト原石を買ってしまったやつ。
ピンク~紫のグラデになってるトルコ産。

#ロス#ジギー

gallery

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◆3.リコの話
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#ロス#ジギー#リコ

幾つかの依頼をこなしたロスとジギーは、戦力不足に直面していた。


具体的には盗賊技能だ。
手先が器用なジギーがこれまでその役割を担っていたが、依頼の難易度が上がるとどうしても力不足の場面が出てくる。


「餅屋に行こう!」


とジギーが勢いよく常宿を出たのが今朝のこと。
二人は盗賊ギルドの隅のテーブルで、次に受ける依頼に合った人材の斡旋を受けていた。
ギルド内には煙草の煙が充満しており、煙の発生源を見ればいかにも路地裏の住民というギラついた目付きの顔が並んでいる。


「で、ソレ儲かるのか?」


言いながら奥から歩み出て来た男は、煙草を咥えたままテーブルの二人を見下ろした。

「上手くやればな」
ジギーが相手を真っ直ぐに見据えて返す。
場違いな空気に落ち着かないロスとは違い、臆した様子はない。

「へーぇ…」
男はテーブルの脇に立ったまま緑灰色の瞳を細め、品定めするようにジギーを見ている。



ギルドマスターの紹介で現れた眼前の人物は、二十代半ばくらいで、栗色の長髪を後ろで一つに束ねた浅黒い肌の細身の男だった。
男はテーブルの脇に立ったまま、咥え煙草をくゆらしすがめるように二人を見ている。


ロス「無理にとは言わない。俺達は協力者を探している。気に入らなければ受けなくても構わない」
その目付きが不快に感じ、思わず語気が強くなる。
ジギーが目当ての相手なら、加わって欲しくはないのが本音だった。

男「お二人ご関係は?随分キレーな顔してんねこちらさん」
ロスの発言を無視しつつ、にやけながら男が椅子に腰掛ける。

ジギー「同宿の冒険者だ。次の依頼に腕のいい解錠役に同行して欲しく、盗賊ギルドを尋ねてきた」
男「解錠役、ね……」
ロス「不満か?専門分野だろう」
男「や、別に?ただ便利なロックピックだと思われんのもラクじゃねぇんだわ」
ジギー「というと?」
男「中には解錠したらお役御免とばかりに手の平返す輩がいんのよ。コッチだって命張る以上、同行者はよぉく吟味しねぇとな」

ロス「俺達はそんな…」
反論しようとしたところに、ジギーの凛とした声が割り込んだ。

ジギー「もっともだ」
「解析、解錠は周囲への警戒が薄くなる分、その背を預ける仲間選びに慎重になるのは当然のことだ」
「慎重さはこの役回りで最も必要とされる要素だ。実力者ほどその身に染みているだろう」
「そして勿論こちらとしても、確かな技術を持ち、宝箱の中身をくすねないという信頼を置ける相手を求めている」
男「……」

ジギー「勿論一朝一夕で叶うものでもないが、俺は第六感というのを信じるタチだ」
ほらまた、瞳がきらめいている。

ロス「ジギー…」
ジギー「ロス、彼はきっと誠実な仕事をしてくれる。こちらが誠実さを見せれば無下にはしないだろう」

視線に射貫かれた男の顔は豆を喰らったようだ。

ジギー「是非依頼に同行してくれ。ジギタリスだ。ジギーでいい」
右手を差し出す。


男は逡巡すると、にやりと口の端を吊り上げ、

男「リコだ。顔の割にグイグイくるねぇ、美人に迫られるのは悪くない」

ジギー「ありがとう。こっちはロス。吸血鬼だ」
リコ「へぇ……」「えっ?」
ロス「えっ?」

ジギー「言ったろう、この役回りは特に不確定要素がない方が成功率が上がるんだ。後々バレるより先に開示してしまった方がやりやすい」
ロス「い、いやいやジギー、それでもこう、タイミングというか順序というか俺と相手の心の準備というか」
ジギー「そういう訳だから、ロスが鏡に映ってなくても気にしないでくれ」
ロス「ジギー話を聞いてくれ!」
リコ「ええっと…」「取りあえずコッチがリーダー?」
ジギーを指しつつ

ジギー「リーダーはロスだ。俺は参謀役だ。決定権はロスにある」
リコ「あっ、へぇ…………リーダー……吸血鬼なのになんでこんな威厳もクソもないんだ…?」
ロス「ジギーは…積極的で…そこがいいとこなんだけど…!」
ロスは顔面を両手で覆っている。

リコ「俺吸血鬼と話したのも同情したのも初めてだわ」
「なんかお前ら抜けてて心配だし、ここはいっちょお兄さんがパーティーの狡猾度を上げてやるとしますかね。んで、どこに行くんだっけか?」
ジギー「依頼の詳細はな…」









ジギー「大冒険だったな!」
ロス「死ぬかと思った…」
リコ「吸血鬼不死じゃなかったか?」
ロス「気持ち的に…」
リコ「なっさけねぇなぁ折角人外なのに…」
「ジギーは生命力2であれだけ落ち着いてんだぜ?」
ロス「肝が座ってるんだよ…そこがいいとこなんだけど…」

ジギー「そして大収穫だったな!」
リコ「あったり前よ!あんくらいの錠前朝飯前だぜ!」
ジギー「中身の鑑定結果も上々で、正に大成功ってやつだな!」
リコ「こりゃ換金したらパーッと打ち上げだな!」
ジギー「リコ!」
リコ「おう!」

ジギー「改めて今日はありがとう。お前の技能には大いに助けられた」
リコ「……」
ロス「……」
ジギー「真摯に役目を果たしてくれたこと、感謝している」

リコ「……こういう時裕福な生まれの奴ってさ、気持ちの余裕が違ぇなって思うよな」
ロス「……」
リコ「いや悪い、喧嘩売ってるんじゃなくて…こっ恥ずかしいやりとりは苦手なんだわ」
「でもなんか、お前らとの冒険、ガキの頃に戻ったみたいで楽しかったぜ」
「ただ毎回こうとはいかねぇから、野垂れ死にしねぇよう精々気を付けろよ?」

ジギー「何を他人事のように言っているんだ?」
リコ「あん?」
ジギー「道中言っていただろう、人探しを兼ねて依頼を受けていて現状はフリーだと」
リコ「言ったが…」
ジギー「なら次も同行してくれ」
「俺達は興味を惹かれればどんな依頼も受ける。自然あちこち出歩くことになる」

「主にジギーのだけどな」とロスが小さく付け足す。

ジギー「お前がいると助かる。受ける依頼の幅も出るし盗賊ギルドにツテも出来て情報収集もしやすい」
「お前としても俺の魔術知識が役立つ場面があるだろう。収集品の価値も変わる」
「ロスはまあ……ちょっと大人しい吸血鬼だが……剣技は中々のものだ」

リコ「ほんとなんでアピール要素が控え目なんだよ…」
ロス「しょうがないだろう、気質なんだ…」

ジギー「今日のところはこのまま解散でもいいが、次の依頼を受ける際にはまた誘いに行くぞ」

リコ「参ったな…」
ロス「言ったろ、ジギーは積極的なんだ…そこが」
リコ「いいとこ、なんだろ?」
ロス「そう……俺からも、礼を言うよ。正直最初は警戒してた。けど、今回の依頼では本当に助けられて、リコがいなかったらこんなに上手くいかなかった」
リコ「……」
ロス「お礼じゃないけど、リコの人探しの力になれたらとも思うんだ」
「俺達の技量じゃ足手まといかもしれないけど…」

リコ「っか~~~お前らって…」
頭を搔きながら呆れたように呟く。

リコ「チッ、こんなつもりじゃなかったのによ…」
「なんだよ向こう見ずな生命力2と技量に自信がない吸血鬼のコンビって…とんでもねぇのに引っ掛かっちまったな…」
ジギー「良かった!宿もこっちに移したらどうだ?打ち合わせもしやすいし、狭いが結構過ごしやすいぞ」
ロス「ジギー、まだ受けてくれるとは言ってない」
リコ「いや言ってるよもう」
ロス「そうなのか?ありがとう…!」
ジギー「本当にいい奴に巡り会えて良かったな!」
リコ「そのいい奴っての止めてくれねぇ?むず痒いんだよ」

ロスがふと立ち止まる。

ロス「…ギルドで」
リコ「?」
ロス「俺が吸血鬼だと聞いた後、何もしないでくれただろ」
リコ「………」
ロス「冗談みたいな流れでも、翌朝討伐依頼が立ったっておかしくはなかった。でもそうならなかった」「…俺達には、それで充分なんだ」

リコ「………」
ロス「改めて、またよろしく頼むよ、リコ」
右手を差し出す


リコ「…よろしく、リーダー」




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ロスは転化時の年齢がリコと同じくらいのイメージです。

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自宿SS

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◆2.ジギーの話
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#ロス#ジギー

第一印象は、ただ、綺麗だと。




紫檀の髪に、魔力を帯びたアメジストの瞳。
石膏を思わせる白い肌。身体に染み付いたハーブの香り。

どこか人間離れした空気を纏い、まるで精巧な人形のような。
それでいて、話せばとても、気さくな人物だった。





歳は23。リューンの賢者の塔所属の魔術師で、その道では由緒のある血族。
名門魔術師貴族の若き次代当主、かと思ったらそうでもないらしい。
長男だからと継ぐものではないのだと。少なくとも彼の家では魔術の才が全てであり、自分はそれほど持ち得ておらず、それゆえ勉学に励んだ為に今の職が拓けたのだと。

いやに俗っぽい話に拍子抜けしたのは確かだ。
彼には貴族特有の驕りもなく、振る舞いは上品ではあるが至極自然で、こちらも変に緊張を強いられることもなく。
曽祖母による大量の謎の収集品の片付けは確かに骨が折れたが、ざっくばらんな彼との会話はとても楽しく、この依頼を受けて良かったと心底思う程だった。

屋敷のがらくたの片付け依頼。
地味で安価な仕事だが自分の気質には合っており、これまでも度々請けてきた。
むこうは冒険者に興味があるようで、自分のなんてことないエピソードにえらく食い付いてくれるので、時間が過ぎるのはあっという間だった。

話の合間にふと彼を見やると、埃っぽい古書を眺め伏せた睫毛の下で、キラキラと光を帯びる朝焼けのような瞳の色が綺麗で、何度か見とれてしまった。
きっとそう感じるのは自分だけではないだろう。さぞ彼を慕う者も多かろうと思っていたら、意外な言葉が彼の口から出た。
殆ど塔と屋敷に籠りきりで、こうした他愛もない会話は酷く久しいのだと。
彼の家が冒険者に依頼を出したのも初めての事で、こんなことならもっと早く依頼を出してみるんだった、と溢したのだ。人嫌いではないようだったが、本の虫としてこれまでの大半を過ごしてきたらしい。
表に出ればさぞ注目を浴びるであろうに、薬草学の研究室というのは変わり者揃いで、術者の見かけよりも珍奇な香草の薬効の方がよほど関心度が高いそうだ。


そうこうしているうちに昼時となり、むこうの好意で昼食を挟むことになった。
老齢の使用人が、サンドイッチとハーブティーをよく陽の入る窓際のガラスのローテーブルへと並べていく。
(この身体になってだいぶ経ち、陽を浴びた後の対処法も身についているため、近頃はさほど陽の光を避けずに過ごせている。)

それを挟んで彼、ジギーと向かい合うかたちに、年期の入ったソファに腰かけた。
(――本名はジギタリスというそうだが、時折茶々を入れに来る彼の二人の姉(イラクサ、ベラドンナという)は彼を「ジギー」と呼んでおり、当人も「長いのでそう呼んでくれ」とのことだった。)

少々ドレッシングに癖のあるサンドイッチを口に運び、これまた癖のあるハーブティーを流し込んでいると、ふとジギーから、何気ない調子で声がかけられた。


ジギー「そういえばお前、吸血鬼なのか」


思わずハーブティーを吹き出しかけ、必死で堪えた反動で激しくむせこんだ。

相手は神妙そうな顔で「大丈夫か」とこちらの様子を伺っている。

涙目になりながら返答に迷っていると、ジギーは申し訳なさそうに話を続ける。

ジギー「いや、さっき片付けをしながら、鏡に映っていない事に気づいて」
「銀製品には特に反応がないようだから、確証はなかったんだが…その反応を見ると…」


ロス「……」
呼吸を整え、改めて返答方法について考える。
特段隠してはいなかったが、大っぴらにしたい訳でもなく。

ロス「……ああ」
とりあえず、至極無難な返答を選んだ。
それに対するジギーの反応は予想外のものだった。

ジギー「そうか……!」
「吸血鬼に会うのは初めてだ」「本当に反射がないんだな」
「煙のようにはなれるのか?」「夜行性では?」「銀に耐性が?」
「蝙蝠とは会話が出来るのか?」「吸血はどのくらいの間隔で?」
「そうだ、サンドイッチを食べても平気なのか?」

子供のように目を輝かせている。
こんな反応をされると、自分が忌むべき存在であるという事を忘れてしまいそうになる。これも魔術師独特の感覚なのだろうか。彼は魔術を込めた薬品研究を生業としているそうなので、その影響もあるのかもしれない。

ロス「えっと…まず、俺は後天的な吸血鬼で、所謂血統種じゃない」
「だからあまり高度な技は使えなくて、まず、よっぽど頑張らないと煙にはなれないし、蝙蝠とも話せない」
「その代わり銀や聖水やニンニクや十字架はそこまで苦手じゃない」
「だから遠出する時なんかは同胞避けに十字架や死人の血を持ち歩いている」
「夜目はきくけど、昼夜逆転してると暮らしづらいから夜はなるべく寝ている」
「吸血の間隔、は……」


手元のサンドイッチに視線を落とす。
自分でも言い淀んでいる実感がある。未だに、吸血は好きではない。
吸血する自分を、認めたくはない……

ジギーはじっと続きを待っている。

ロス「……今は…合間に動物の血を挟んだりして…月に、数度…」
「あまり…好きじゃないんだ…」
そう言って俯いた。

ジギー「…じゃあやはりこの食事では、養分にならないのか」

ロス「味は感じるよ。餓えは満たせないだけで…腹にはちゃんと溜まるから…」
「食べたって気には、一応なる…」

ジギー「餓え、か」
ロス「……」

相手に自分が吸血鬼だと打ち明けたことは数えるほどしかない。
それでもいつも、自分と相手の間にそれまでなかった深い溝が引かれたような感覚で、気分が良いものではなかった。


捕食者と被捕食者。
決して相容れない種族の差。
変容してしまった以上、もう戻ることは叶わない。
相手によっては自分の事を討伐対象とみるだろう。
それにより問題が起きたことも過去にある。

午前中ののどかな空気がすっかり過去のもののようだ。
あの時彼と自分の間に種族の隔たりはなかったのだ。
…でも彼は、もしかするとその頃から気付いていた…?


ジギーは、静かに、そして穏やかに、まるで小さい子供にそうするように、声色を選んで話し出した。

ジギー「……興味本位で問い詰めてすまなかった」
「後天性のものなら葛藤はあって当然だろう」
「お前のことは…宿の親父に確かな人物だと聞いている。もう、長い付き合いだとも…」

ロス「……」

ジギー「…ひとつ、伝えておきたい。俺は吸血鬼に嫌悪はない」
「むしろ、その超常には大いに興味がある」
「あまり技が使えないとのことだが、使えるものはどんなものがあるんだ?」
「お前が嫌ではなければ、もう少し質問させて欲しいんだ。知りたいことが沢山ある」

真っ直ぐに向けられた瞳に、思わず頷いてしまう。

ジギー「ありがとう。そうだな、例えば眷属を増やしたりは?噛んだら相手が変容するとかいうだろう」

ロス「眷属…は…試したことがない…」
「けど…これまで噛んだ人は…グールになったりはしてない…と思う…」

ジギー「なるほど。魅了は使えるのか?」

ロス「魅了…と言えるのか…逃げないように暗示をかけることは…一応…」

ジギー「ならやってみてくれないか」
ロス「なんて?」
思わず声が上ずる。

ジギー「何がキーになるんだ?瞳術か?超音波?どのくらいの距離から作用する?」
ロス「い、いやよくわからない…」
ジギー「噛んだ後も痛みを誤魔化す何かが起きているはずだ」
「一般には相手を恍惚状態にする墔淫効果がいわれるが、相手はそういった状態になるのか?効果の持続時間は?何度もやると耐性がついたりは?」
「お前を吸血鬼化した相手はどうしてるんだ?お前はその相手の眷属ではないのか?単に仲間を増やして満足したのか?それとも別の要因が?」

研究者というのは皆こういうものなのだろうか。
ジギーが徐々に前に身を乗り出すにつれ、自分は後ろに引いている。

ロス「そ、そんな風に考えたことなかったから…よく…分からない…」
ジギー「そうか、そうだな」「じゃあ手近なとこから…」
口元に手をあてつつ何かを思案している。
何だか録でもない事な気がする。

ジギー「ロス」
アメジストの双眸がこちらを射る。

ロス「い、今は別に餓えてないから…仕事中に依頼人に暗示をかける訳にもいかないし…」
ジギー「先回りするな。体験すると色々手っ取り早いんだ」
ロス「初対面でそんな…」
ジギー「いつもは顔見知りから吸血を?」
ロス「ち、違うけど…」

たじろいでいると、ジギーは小さくため息をつき、すっと席を立った。

ジギー「…そんなに嫌だと言うなら、今日の所はとりあえず、働きに報いるという形で」

言うなり近くの棚から小さなナイフを取り出すと、左手の掌にあてがい、躊躇いなく引いた。
ジギーの白い肌に真っ赤な線が走り、じわりと鮮血が溢れ出す。
あまりに平然とした所作に、吸血鬼である自分の方が唖然としている。

小さなグラスの上にその手をかざし、滴る赤い液体をぽたりぽたりと溜めていく。


動揺しつつも、ロスは相手に気付かれないよう静かに喉を鳴らした。
今は確かに餓えてはいない。
けれど満たされている訳でもない。



ジギー「感想を聞かせてくれ」
血の味の、と続けた。

何故、と問うと、自分のような幼少期から薬草、時には毒草を身に取り込んでいる人間は、そうじゃない人間と味が違うのかが気になるらしい。

それに、と続ける。
ジギー「今後新薬の薬効を調べるのに、血の味の変化が役立つかもしれない」
「強力な薬程、血液に直接作用する」
「その微細な変化を感覚的に捉えられれば研究も進みやすくなる」
「かもしれない」

ロス「かもしれない」
ジギー「半分は言い訳だ。単にお前の感想が聞きたいだけで」

言い終わる頃には小さなグラスの七割がたがジギーの血で満たされていた。

ジギー「魔術の触媒に術者の血を使うのは珍しくない」
「俺も幼い頃から血を抜くのは慣れている」
「だから気にしなくていい」

手慣れた様子で掌の手当てをし、グラスをこちらに寄せる。

魔術師とは恐ろしいものだなと、吸血鬼である自分が思うのはなんだか滑稽だ。

しかし流れ出た血を元に戻すことは叶わない以上、いただかない訳にはいかないだろう。

ロス「…じゃあ…遠慮なく…」

おずおずとグラスを口に運ぶと、一息に嚥下する。
喉に流れ込んだ液体は瞬時に身体の隅まで染み渡り、否応にも活力が湧くのを実感できる。
そして提供者ご希望の感想を述べる。

ロス「なんだか、草っぽい…」

ジギー「草っぽい」
ロス「あの、あれ…青汁?みたいな風味が…」
ジギー「青汁」
ははっ、と声を上げ、ソファに沈みながら笑っている。笑った顔も綺麗だ。


ジギー「なるほど、とても興味深い」
ありがとう、と謝辞を口にし、こちらを真っ直ぐ見つめてくる。
キラキラと乱反射するアメジストが、自分の瞼の裏に焼き付いていく。

ジギー「じゃあ、腹も満たせた事だし片付けの続きといこうか」

ジギーは自分の背後のうず高い骨董品の山を指差した。
そうだ、まだこの任務は続くのだ。
思いがけない報酬の分まで働きを示さなくては。

そう思いながらもどこか浮ついたような、奇妙な感覚のまま、ロスは作業を再開した。









結局屋敷の片付けは一度では終わらず、ジギーの予定に合わせて数度に分けて行うこととなった。

ひいおばあ様は集めるばかりで片付けないから…と愚痴を溢していたものの、片付けた中からは幾つか彼の無くし物が発見され、当人もその存在からして忘れていたため、血なのだなあと感じられた。

そうしてひと月ほどかけてようやく全ての仕事が終わり、埃っぽい幾つもの部屋に別れを告げ、重い銀貨の袋を手に、ロスは屋敷を後にした。


これでしばらくはゆっくり過ごしていられるだろう。
親父にツケも少し返しておこうか。
宿への帰り道、そんな算段を浮かべながらも、頭の中心では焼き付いた光の色を思い出していた。

ジギーは嫌がる自分に血を吸わせるのは無理だと諦めたのか、初日以降は噛んでくれとは言わなかった。

しかし、感想を、と小さなグラス一杯を差し出すのは、相変わらず続けた(そしてやはり青臭かった)。
お陰ですこぶる調子が良かったのも確かで(青臭さと充足感には相互関係がないらしいことも分かった)、あの厚待遇が後ろめたくも名残惜しいのも事実だった。

研究協力の誘いに乗れば、今後もまた定期的に会えたかもしれない。

(――けれど)

好奇心を隠さず自分に詰め寄る姿が脳裏に浮かぶ。
彼はこの不浄の血を嫌悪していない。

(――けれど)

自分は、きっと彼に不利益をもたらすのではないか。
自分では、自分をまだ、律しきることができないのではないか。
不安が、じゃらじゃらと足元に纏わり付く。

(それに、)

ふと視線を空へと向けた。

それに、親しくなったところで、彼と自分では、時の流れが異なるのだと。
親しくなればなるほど、きっとそれは、寂しさの種となる。

吹き込んだ風に肌寒さを感じ、ロスは襟を立てつつ、足早に常宿へと向かった。

 







ひと月後。
ある朝《凪の庵》に来訪者が訪れた。
来訪者は扉を開けると、上質なローブを翻しながら、真っ直ぐカウンターへと進んできた。
その衣類からは、苦いような爽やかなような、様々な薬草の香りが漂っている。


親父「おや、また片付け依頼か?ロスなら2階にいると思うぞ」
ジギー「上がっても?」
親父「急ぎなのか?…寝てるかもしれんが、まぁいいだろう」

ドアをノックする。
中から気の抜けた返事が聞こえた。
寝起きなのかもしれない。ノブを回し、ドアを開ける。

ロス「親父さん…今月のツケはまだ…」

灰桃色の癖毛をくしゃくしゃと掻きつつ寝惚け面でドアの前に出てきたロスは、眼前の人物に絶句した。

ジギー「……」
ロス「……」「ジギー…?」
ジギー「ツケなんてあったのか」

ロス「ち、ちょっとな…」「それで…どうした?何か用か?」
ジギー「俺もここを常宿にしようかと思って挨拶に」
ロス「へー……」
「え?」

ジギー「多少狭いが、悪くない部屋だな」
ロス「え…え?塔での仕事は?家は?」
ジギー「どちらも俺が居なくてもどうにでもなる。家は姉が継ぐし、仕事も幾らでも代わりはいる役割だ」
ロス「……」
ジギー「塔と家の往復だけでは得られない体験があると、お前に会って気付かされた。これまで書物は数え切れない程読んだが、吸血鬼と昼食をとったことは一度もなかった。もちろん噛むのを拒否されたことも」
ロス「そんなに根に持ってたのか…」
ジギー「好奇心だ、ロス。冒険者は生活のためにどんな仕事でも受けるんだろう。毎回何が起こるか未知数だ。それでも行く。それは何故だ」

ツケが…と言いかけ、すんでで止める。
ロス「たぶん…この生き方が、合っているから…」

ジギー「俺はな、ロス」


ああ、またきらめいている。

ジギー「臆病な吸血鬼が、その未知の冒険に挑んでいく様に興味を惹かれて堪らなくなってしまった」

「そういうわけだから、今後は同宿の仲間として、よろしく頼む」


美しい笑顔と共に差し出された右手はやはり、青い薬草の香りを纏っていた。





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自宿SS

18

◆1.ロスの話
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#ロス

ある日、その青年は宿の戸口に訪れた。





一度ドアノブに手をかけ、間を置いて、ドアを二度ノックした。
開いているぞ、と声を掛けると、届け物があって、と返ってきた。
この宿を常宿としていた冒険者が落命し、その遺品を届けに来たのだと、戸外の声はおずおずと続けた。
その冒険者の名前に憶えがあったため、「とりあえず中へ」と言うと、ようやく相手は建物内へと入ってきた。

灰桃色の癖毛で色の白い男が、バツが悪そうに俯きがちでカウンターへとやってきた。
その衣服は見るからにズタボロで、怪我はないのかと思わず注視していると、荷袋から古びた革の手帳を取り出した。

「この手帳の持ち主の最期に立ち会いました」
「他にも幾つかの持ち物を預かり、亡骸は、山中だったのでその場に埋葬しました」
「彼を、助けることができませんでした」
「それどころか僅かに息があった彼に、このまま助からないだろうと、止めを刺してしまったのです」

こちらに手帳を差し出す手は、小さく震えていた。


そして、過去の記憶をなくしており、帰るあてもないこと。
償いと、あてのない自分のよすがとして、彼の返済を肩代わりさせて欲しいことを申し出た。


青年の話はどこまでが真実なのか分からない。
だが少なくとも、馴染みの冒険者が一人どこかで果て、その持ち物がここにあり、届けにきた人物は酷く憔悴していることは確かだった。

肩代わりについてはとりあえず保留とし、宿の部屋を一つ、青年にあてがった。
手持ちがないと言うので、これがツケだと答える。



名前を尋ねると、覚えていないが目覚めた場所の名の一部は分かる、と。
そこから彼の名は《ロス》となった。




掃除や雑用も進んでこなし、人の嫌がる依頼を受け、揉め事があれば仲を取り持ち、
かといってでしゃばらず、たまに具合が悪そうに引きこもる。

他の冒険者とは付かず離れず一定の距離をとり、
親密になりかけると、「大きな依頼を受けたから」と何ヵ月も宿を空け、また距離を置こうとする。
そうして帰った時にはひどく疲れたような顔をしているので、「大丈夫か?」と問えばいつも困ったように笑ってみせる。

宿の食事は旨いと言って食べるが、それで顔色は良くならず、
肉の仕込みで血抜きをしていると、ぞっとするような眼で凝視する。
そして紅い月の夜には、必ずどこかへ出かけて行く。

そんな"変わり者"の冒険者を宿に置いて、もうぼちぼち10年が経つ。
肩代わりの分などとっくに返し終えていても、新たなツケが生まれてくるのが冒険者と宿との関係だ。


……――そして今日も気弱な《吸血鬼》は、割に合わない仕事を終えて、この宿に帰ってくるだろう。





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自宿SS

14

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『或る吸血鬼と魔術師の半世紀』

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ああでも君、
老いていかないで
置いていかないで

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