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◆ライオネルの独白
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#ライオネル#スラッグ

あの日から、人間は等しく食物となった。




無性に食いたくなる好物の類い。

人間はどれも脆く、弱く、儚い。

そう感じる自分はもう、人間ではないのだ。



ではこの相手は?
同じように食物ではないのか?
何故殺さず肩を並べている。
何故空腹でも手を出さない。
何故。
何故。

スラッグと出会ったのは三年程前。
下手を打って死にかけの俺と、
下手を打って死にかけのあいつの出会い。
それでも分は俺にあった。
何故なら俺は人狼だからだ。
そう信じて疑わなかったが、結果的には敗れた。
ただの人間だとたかをくくった俺の慢心のせいだ。

久々だった。
命を握られる感覚。
忘れかけていた補食される側の視点。



たまに思い出したかのようにこう言う。

「お前が死んでも側に置いて遣ってやるよ」

俺はいつもこう返す。

「お前が死んだら骨まで残さず喰ってやる」

お決まりのやりとり。



どこまでが本心だか、結局全て煙に巻かれる。

ライオネル「その煙草」
スラッグ「ああ、お前にはキツいか」
ライオネル「いや、まぁ…なんか、あんま見かけねぇ銘柄だな」
スラッグ「…そうだな。このあたりじゃそうそうない」

なんとなく、それは故人のものなのだと思う。
こいつは過去を一切打ち明けないが、こいつを縛り続けているのはその過去であろうとは想像がつく。

こいつの死霊術も、全身の斑紋も。
全部過去の誰かの為なのだろう。

今を生きながら死んだ時間を思い続けるこいつは、リビングデッドを引き連れるに相応しい。



こいつは何故俺を殺さないのだろう。

俺は何故こいつを殺さないのだろう。

爪を立てれば簡単に皮膚が破れて血液が溢れ出るだろうに。
牙を立てれば簡単にその肉を骨を砕き噛み千切れるだろうに。

ある晩熱に浮かされて、うわ言を呟きながら部屋を出ようとするあいつを引き留め、
それからもう、本当に分からなくなってしまった。

こいつが自分にとってなんなのか。
エサではないならなんなのか。

何故側に居たいと思うのか。
何故時折どうしようもなく孤独に苛まれるのか。
こんな些末な悩みをバケモノでも抱えるものなのか?

本当はそう、
あの紅し夜色の瞳を持つ同胞に聞きたいのは、
そういうバケモノらしからぬ感情の正体の話で、
お前はそのお綺麗なコイビトと、どう折り合いをつけてるのかって話がしたく…………



「ッダーーーーーーもう!!!!」

スラッグ「!?」「どうした急に」
ライオネル「ガラにもなく頭使ったら脳天カチ割れそうになった」

スラッグは喉でくっくと笑う。

スラッグ「お前は自分で言うほど脳筋じゃないぞ」
ライオネル「そぉかぁ~?」
スラッグ「お前が直情型のバカだったらとっくにどちらか死んでいるさ」
ライオネル「……」
スラッグ「…お前が存外湿っぽい性格だから、……」

そこまで言うと、意図的に続きを断つ。



全てがはっきりしない、靄の中のようだ。
死霊を遣う人間と、人間を喰らう人狼と。
分かっているのは俺達の周りには、常に死の臭いが立ち込めているということだけ。
いつか救われたいと願いながら、尾を噛む蛇のようにぐるぐると。



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スラッグは男女どちらでもいい感じです。
ロスより酷い存在に意図せず転化したライオネルが、理性と本能に苛まれる様子が好きです。



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