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◆3.リコの話
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#ロス#ジギー#リコ

幾つかの依頼をこなしたロスとジギーは、戦力不足に直面していた。


具体的には盗賊技能だ。
手先が器用なジギーがこれまでその役割を担っていたが、依頼の難易度が上がるとどうしても力不足の場面が出てくる。


「餅屋に行こう!」


とジギーが勢いよく常宿を出たのが今朝のこと。
二人は盗賊ギルドの隅のテーブルで、次に受ける依頼に合った人材の斡旋を受けていた。
ギルド内には煙草の煙が充満しており、煙の発生源を見ればいかにも路地裏の住民というギラついた目付きの顔が並んでいる。


「で、ソレ儲かるのか?」


言いながら奥から歩み出て来た男は、煙草を咥えたままテーブルの二人を見下ろした。

「上手くやればな」
ジギーが相手を真っ直ぐに見据えて返す。
場違いな空気に落ち着かないロスとは違い、臆した様子はない。

「へーぇ…」
男はテーブルの脇に立ったまま緑灰色の瞳を細め、品定めするようにジギーを見ている。



ギルドマスターの紹介で現れた眼前の人物は、二十代半ばくらいで、栗色の長髪を後ろで一つに束ねた浅黒い肌の細身の男だった。
男はテーブルの脇に立ったまま、咥え煙草をくゆらしすがめるように二人を見ている。


ロス「無理にとは言わない。俺達は協力者を探している。気に入らなければ受けなくても構わない」
その目付きが不快に感じ、思わず語気が強くなる。
ジギーが目当ての相手なら、加わって欲しくはないのが本音だった。

男「お二人ご関係は?随分キレーな顔してんねこちらさん」
ロスの発言を無視しつつ、にやけながら男が椅子に腰掛ける。

ジギー「同宿の冒険者だ。次の依頼に腕のいい解錠役に同行して欲しく、盗賊ギルドを尋ねてきた」
男「解錠役、ね……」
ロス「不満か?専門分野だろう」
男「や、別に?ただ便利なロックピックだと思われんのもラクじゃねぇんだわ」
ジギー「というと?」
男「中には解錠したらお役御免とばかりに手の平返す輩がいんのよ。コッチだって命張る以上、同行者はよぉく吟味しねぇとな」

ロス「俺達はそんな…」
反論しようとしたところに、ジギーの凛とした声が割り込んだ。

ジギー「もっともだ」
「解析、解錠は周囲への警戒が薄くなる分、その背を預ける仲間選びに慎重になるのは当然のことだ」
「慎重さはこの役回りで最も必要とされる要素だ。実力者ほどその身に染みているだろう」
「そして勿論こちらとしても、確かな技術を持ち、宝箱の中身をくすねないという信頼を置ける相手を求めている」
男「……」

ジギー「勿論一朝一夕で叶うものでもないが、俺は第六感というのを信じるタチだ」
ほらまた、瞳がきらめいている。

ロス「ジギー…」
ジギー「ロス、彼はきっと誠実な仕事をしてくれる。こちらが誠実さを見せれば無下にはしないだろう」

視線に射貫かれた男の顔は豆を喰らったようだ。

ジギー「是非依頼に同行してくれ。ジギタリスだ。ジギーでいい」
右手を差し出す。


男は逡巡すると、にやりと口の端を吊り上げ、

男「リコだ。顔の割にグイグイくるねぇ、美人に迫られるのは悪くない」

ジギー「ありがとう。こっちはロス。吸血鬼だ」
リコ「へぇ……」「えっ?」
ロス「えっ?」

ジギー「言ったろう、この役回りは特に不確定要素がない方が成功率が上がるんだ。後々バレるより先に開示してしまった方がやりやすい」
ロス「い、いやいやジギー、それでもこう、タイミングというか順序というか俺と相手の心の準備というか」
ジギー「そういう訳だから、ロスが鏡に映ってなくても気にしないでくれ」
ロス「ジギー話を聞いてくれ!」
リコ「ええっと…」「取りあえずコッチがリーダー?」
ジギーを指しつつ

ジギー「リーダーはロスだ。俺は参謀役だ。決定権はロスにある」
リコ「あっ、へぇ…………リーダー……吸血鬼なのになんでこんな威厳もクソもないんだ…?」
ロス「ジギーは…積極的で…そこがいいとこなんだけど…!」
ロスは顔面を両手で覆っている。

リコ「俺吸血鬼と話したのも同情したのも初めてだわ」
「なんかお前ら抜けてて心配だし、ここはいっちょお兄さんがパーティーの狡猾度を上げてやるとしますかね。んで、どこに行くんだっけか?」
ジギー「依頼の詳細はな…」









ジギー「大冒険だったな!」
ロス「死ぬかと思った…」
リコ「吸血鬼不死じゃなかったか?」
ロス「気持ち的に…」
リコ「なっさけねぇなぁ折角人外なのに…」
「ジギーは生命力2であれだけ落ち着いてんだぜ?」
ロス「肝が座ってるんだよ…そこがいいとこなんだけど…」

ジギー「そして大収穫だったな!」
リコ「あったり前よ!あんくらいの錠前朝飯前だぜ!」
ジギー「中身の鑑定結果も上々で、正に大成功ってやつだな!」
リコ「こりゃ換金したらパーッと打ち上げだな!」
ジギー「リコ!」
リコ「おう!」

ジギー「改めて今日はありがとう。お前の技能には大いに助けられた」
リコ「……」
ロス「……」
ジギー「真摯に役目を果たしてくれたこと、感謝している」

リコ「……こういう時裕福な生まれの奴ってさ、気持ちの余裕が違ぇなって思うよな」
ロス「……」
リコ「いや悪い、喧嘩売ってるんじゃなくて…こっ恥ずかしいやりとりは苦手なんだわ」
「でもなんか、お前らとの冒険、ガキの頃に戻ったみたいで楽しかったぜ」
「ただ毎回こうとはいかねぇから、野垂れ死にしねぇよう精々気を付けろよ?」

ジギー「何を他人事のように言っているんだ?」
リコ「あん?」
ジギー「道中言っていただろう、人探しを兼ねて依頼を受けていて現状はフリーだと」
リコ「言ったが…」
ジギー「なら次も同行してくれ」
「俺達は興味を惹かれればどんな依頼も受ける。自然あちこち出歩くことになる」

「主にジギーのだけどな」とロスが小さく付け足す。

ジギー「お前がいると助かる。受ける依頼の幅も出るし盗賊ギルドにツテも出来て情報収集もしやすい」
「お前としても俺の魔術知識が役立つ場面があるだろう。収集品の価値も変わる」
「ロスはまあ……ちょっと大人しい吸血鬼だが……剣技は中々のものだ」

リコ「ほんとなんでアピール要素が控え目なんだよ…」
ロス「しょうがないだろう、気質なんだ…」

ジギー「今日のところはこのまま解散でもいいが、次の依頼を受ける際にはまた誘いに行くぞ」

リコ「参ったな…」
ロス「言ったろ、ジギーは積極的なんだ…そこが」
リコ「いいとこ、なんだろ?」
ロス「そう……俺からも、礼を言うよ。正直最初は警戒してた。けど、今回の依頼では本当に助けられて、リコがいなかったらこんなに上手くいかなかった」
リコ「……」
ロス「お礼じゃないけど、リコの人探しの力になれたらとも思うんだ」
「俺達の技量じゃ足手まといかもしれないけど…」

リコ「っか~~~お前らって…」
頭を搔きながら呆れたように呟く。

リコ「チッ、こんなつもりじゃなかったのによ…」
「なんだよ向こう見ずな生命力2と技量に自信がない吸血鬼のコンビって…とんでもねぇのに引っ掛かっちまったな…」
ジギー「良かった!宿もこっちに移したらどうだ?打ち合わせもしやすいし、狭いが結構過ごしやすいぞ」
ロス「ジギー、まだ受けてくれるとは言ってない」
リコ「いや言ってるよもう」
ロス「そうなのか?ありがとう…!」
ジギー「本当にいい奴に巡り会えて良かったな!」
リコ「そのいい奴っての止めてくれねぇ?むず痒いんだよ」

ロスがふと立ち止まる。

ロス「…ギルドで」
リコ「?」
ロス「俺が吸血鬼だと聞いた後、何もしないでくれただろ」
リコ「………」
ロス「冗談みたいな流れでも、翌朝討伐依頼が立ったっておかしくはなかった。でもそうならなかった」「…俺達には、それで充分なんだ」

リコ「………」
ロス「改めて、またよろしく頼むよ、リコ」
右手を差し出す


リコ「…よろしく、リーダー」




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ロスは転化時の年齢がリコと同じくらいのイメージです。

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