【保管庫閲覧規則】
1.保管物一切の外部持ち出しを禁ず。
2.編纂室を通さない保管物の改竄を禁ず。
3.保管庫は原則を公開書架とし自由閲覧を許可する。
2.編纂室を通さない保管物の改竄を禁ず。
3.保管庫は原則を公開書架とし自由閲覧を許可する。
※保管物の全ては編纂室による架空世界の集積記録であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
※一部保管物には、暴力・死・精神的衝撃、ならびに軽度の性表現・性暴力・虐待を想起させる描写が含まれる可能性があります。
※観測した事象の変遷により保管物に再編纂が生じる可能性があります。
※保管庫内は文書保存の観点より低湿度に維持されています。閲覧に際し眼または咽喉に乾きを覚えた場合は、適宜休息及び水分補給を推奨します。
※一部保管物には、暴力・死・精神的衝撃、ならびに軽度の性表現・性暴力・虐待を想起させる描写が含まれる可能性があります。
※観測した事象の変遷により保管物に再編纂が生じる可能性があります。
※保管庫内は文書保存の観点より低湿度に維持されています。閲覧に際し眼または咽喉に乾きを覚えた場合は、適宜休息及び水分補給を推奨します。
《編纂室連絡窓口》
【編纂室責任者】蓮賀ミツヨシ
【場所】#お屋敷
【人物】#ネクロ #ロイス
=====================
ロイスの自室にて
ロイス「君ってさ……酔うと大人しくなるよね」
ネクロ「……は?」
ロイス「大人しくて、素直になる」
ネクロ「……」
ロイス「よく、酔った時の振るまいがその人の本性だとかいうじゃない?」
ネクロ「ああ……」
ロイス「君の本性は素晴らしいねぇ……」
ネクロ「本性て……」
ロイス「だから浴びるように飲んでても咎められないんだろうね」
ネクロ「まぁ……そもそも我を無くすほど飲まねぇしな……」
ロイス「無くしたことってあるの?」
ネクロ「潰れたことは、ある」
ロイス「あるんだ……」
ネクロ「一緒にいたヤツに聞いたら普段とそう変わらなかったそうだが、気付いたら翌朝だった」
ロイス「なるほど……」
ネクロ「あれ以来調子が乗らねぇ時は無理に飲まないと誓った」
ロイス「誓っちゃったの」
ネクロ「時と場所は自分で選びたい……気持ちよく飲みたいからな、アルコールに主導権握られるのはゴメンだ」
ロイス「そっか……」
ロイス「酔うとさ、真っ赤になる人いるよね」
ネクロ「エルリューだな」
ロイス「そうなの?」
ネクロ「あいつビール三杯で泥酔する」
ロイス「それは凄い……」
ネクロ「まぁ言動おかしくなる前に寝潰れるんだが」
ロイス「ああ寝ちゃうんだ」
ネクロ「アルコールに前世で恨みでも買ったんだろうな……」
ロイス「ふふ……アルコールに……」
ネクロ「だから飲んでもほとんどジュースみたいなカクテルしか飲まない」
ロイス「かわいい」
ロイス「そういえばカスタさんは飲めるの?」
ネクロ「弱くはないんだが、深酒すると段々言動が……雑になる」
ロイス「雑に」
ネクロ「雑に……口も若干悪くなる」
ネクロ「だから身内に腹黒扱いされる」
ロイス「はは、私と一緒だ」
ネクロ「……」
ロイス「抑圧してるんだねぇ……」
ネクロ「まぁ、してるんだろうな……」
ロイス「……ルイは飲めそう?」
ネクロ「あー……あんま飲みたがらねぇな。食ってばっかりで……」
ロイス「ふふ……」
ネクロ「まだ食い気が勝ってるんだろ……」
ロイス「健全で何より……」
ネクロ「食い気で思い出したが、あいつ最近ウチの出入りのパン屋にプライベートで通ってるぞ」
ロイス「パン屋?」
ネクロ「焼き損じ目当てに。店の手伝いも多少やってるらしいが」
ロイス「どれだけ食い意地張ってるのか……」
ネクロ「店主にはもう随分気に入られてて、娘の婿になんて話もあるとかないとか」
ロイス「えっ」
ネクロ「あいつと同じくらいの娘がいるんだよ。愛想のない赤毛の……他にチビの弟が二人だったか……」
ロイス「婿……」
ネクロ「今度聞いてみろよ」
ロイス「えっ…………うん……」
ネクロ「……胸中複雑?」
ロイス「いや……逆に今までそういう話が全く出なかった事の方が、驚くべきことだよね……」
ネクロ「まあな。俺から見てもいつまでも毛も生えないガキに思えて結婚だのピンとこねぇ」
ロイス「……そう、だよねぇ……」
ネクロ「とっくに生えてんだけどな」
ロイス「……」
ネクロ「……詳しく聞きたいか?」
ロイス「えっ……いや……」
「なんか……人伝に聞いていい事じゃない気がする……」
ネクロ「ククッ……そうか」
ロイス「笑い事じゃないよ……」
ネクロ「笑い事だろ。まぁ特別変わった造りじゃねぇから安心しろよ」
ロイス「……それは安心……」
「今でも一緒にお風呂入ったりするの?」
ネクロ「たまに?」
「遠征先でいい風呂あったりすると、入ったりするな……」
ロイス「背中流したり……?」
ネクロ「あー……それはあんまり。各々思い思いに」
ロイス「いいねぇ……」
ネクロ「参加したいか?」
ロイス「そうだねぇ……」
ネクロ「じゃあ次入る時は現地から呼び出しかけてやるよ」
ロイス「着くまでにどれくらいかかるのか……」
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【人物】#ネクロ #カスタ
=====================
ネクロ「あいつ新しく女できたらしいぞ」
カスタ「あいつって」
ネクロ「エルリュー」
カスタ「へえ、良かったね」
ネクロ「しかも相手は元教え子」
カスタ「結構年下?」
ネクロ「20代」
カスタ「流石だなぁ……」
ネクロ「あいつなんやかんや女が途切れねぇよな」
カスタ「優しいもん」
ネクロ「そんで人に甘えんのが上手いんだよ」
「流石ほぼ他人のオッサンに道端で拾われただけある」
カスタ「そう考えると凄いな」
ネクロ「でも別れんのは壊滅的に下手だな」
カスタ「確かフラれたことないよね?」
ネクロ「前の女が出てきて結果的にフラれたケースは多々あった」
カスタ「そうだ」
ネクロ「アレ覚えてるか、エルリューが朝市行くっつって出てってすぐ戻ってきて、背中押さえながら」
カスタ「覚えてるよ……」笑いつつ
ネクロ「刺された!」
「誰に!?昨日の残党に!?」
ネクロ「「ジャクリーン」」
カスタ「「ジャクリーン」」
ネクロ「クッ……今でも笑える」
カスタ「あれはビックリしたな」
ネクロ「しかもフォークで」
カスタ「穴が三つ開いてたね」
ネクロ「恐ろしいのは刺した女が一人じゃねぇとこだな」
カスタ「何故かだんだん病んでくんだよね……」
ネクロ「あいつにマンツーマンで甲斐甲斐しくされっと性根が腐るのかもな……」
ネクロ「平常でいられたオッサンが異端だったのかもしれない」
カスタ「耐性があったのかな」
「歴代彼女が若くて家庭環境悪そうな子ばっかりだったせいもあるよな……」
ネクロ「確かに。ベタベタに依存させてたからな……ありゃ別れるなら殺してやるって思われても仕方ないか」
カスタ「そう考えると結構酷いよね……」
ネクロ「極悪人の類いだな。女の敵だぞ」
カスタ「平気で10個下とかにも手出してたしね……」
ネクロ「……」
ネクロ「俺のなんとマトモなことか」
カスタ「んん~~~……手放しに同意しかねる」
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【人物】#エルリュー #ルイ
=====================
ルイ「この前の話なんだけど……」
エルリュー「おう、どうだった」
ルイ「結婚する事になった」
エルリュー「おめ……」
「えっ……!?」
エルリュー「えっと確か相手に好きな奴がいないか聞いてみるって段階だったよな……!?」
ルイ「うん。聞いたら、別にいないって言うから、じゃあ俺と結婚しない?って聞いたら、するって。」
エルリュー「……」
ルイ「エルリューに相談して良かった」
エルリュー「お、おう……そりゃ、何よりだ……」
「……」
「野暮な事だが、お前、その子と……その……恋人っぽいことしたことあんのか?」
ルイ「恋人っぽい……」
エルリュー「(一体どの段階からっ……!)」
「ホラ、手ぇ繋いだり……」
ルイ「あぁ」
エルリュー「(あぁ、て……)」
「結婚するからには、その、夫婦な訳で……」
「子供作ったりとか……」
「(なんでこんなビビりながら話してんだ俺は……)」
ルイ「それは、まぁ、わかってる」
エルリュー「(わかってんのか……)」
ルイ「エルリュー、俺、別にそういうのに全く関心ない訳じゃないからね?」
エルリュー「えっ……」
ルイ「……人より淡白な自覚はあるけど……」
エルリュー「そ、そうなのか……俺はてっきり……」
ルイ「もう23だし」
エルリュー「23……!?」
ルイ「うん」
エルリュー「……………………」
「怖っ……」
ルイ「ただ、恋人として付き合ったりするより、もう結婚した方が早いんじゃないかと思って」
エルリュー「……」
ルイ「もう知り合って6年くらい経つし、距離感も家族みたいな感じだったから、改めて踏み切るのも……ちょっとキッカケが欲しくて」
エルリュー「……」
ルイ「だから相談したんだ。上手くいってよかった。親父さんにも、凄い喜ばれた」
エルリュー「……」
エルリュー「ルイ、お前……」
ルイ「ん?」
エルリュー「そんなに喋れたんだな……」
ルイ「喋れるよ」
エルリュー「いや……うん……」
ルイ「……皆でいる時はさ、聞いてるのが楽しかったから」
エルリュー「……」
ルイ「話すの苦手とか、嫌いって訳じゃないんだ」
エルリュー「……そうか」
「……」
「どんな子なんだ?お相手は」
ルイ「ぶっきらぼうで、いつも怒ったような顔してるけど、根は凄く優しい人」
エルリュー「……」
ルイ「……あと、しっかりしてるけど、ホントは結構、甘えたがり」
エルリュー「そうか……」微笑む
ルイ「うん……」
エルリュー「良かったな、おめでとう」
ルイ「……ありがとう」
エルリュー「式には招待してくれよな」
ルイ「勿論」
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【人物】#エルリュー #ルイ
=====================
エルリュー「おう、どうした相談なんて珍しい。まぁなんでも聞けよ、伊達にここまで生きてねぇからな」
ルイ「うん、俺、結婚しようと思ってさ」
エルリュー「ゴフッ」
「……」
「え?……け、結婚……?」
ルイ「うん」
エルリュー「は?え?え、だ、誰と……ってかお前彼女いたの?」
ルイ「うーん…………うん…………」
エルリュー「なんでそこ歯切れ悪いんだよ!彼女じゃねぇのに結婚出来るか?出来ねぇだろ?」
ルイ「彼女……って……どういうの?」
エルリュー「……」
「えっ……と……」
「(まずどの辺から説明が必要なんだ……)」
「とりあえず、結婚したいと思う相手がいるんだな」
ルイ「うん」
エルリュー「相手はお前の事どう思ってるかわかってんのか?」
ルイ「どう」
エルリュー「好きか嫌いかって話だよ」
ルイ「嫌いじゃない……と思うけど」
エルリュー「……(大丈夫か?まさかコイツ全く脈のない女に求婚しようとしてないか?)」
ルイ「婿に来ないかって言われてて。向こうの親父さんに」
エルリュー「……はっ!?」
ルイ「それは断って」
エルリュー「えっ……」
ルイ「でも、結婚するのは悪くないかな、って思い始めて」
エルリュー「……」
ルイ「多分向こうも大丈夫だと思うんだけど、これでいいのかな、ってちょっと聞いてみたくて」
エルリュー「……」
「……なんで向こうも大丈夫だと思うんだ……?」
ルイ「……なんとなく。」
エルリュー「……」
「も……もしかしたら他に好きな奴がいるかもしれねぇぞ……?」
ルイ「あぁ」
エルリュー「(あぁ、て……)」
ルイ「そういうのは、聞いたことなかった」
エルリュー「……」
ルイ「今度聞いてみる」
エルリュー「……」
「おう……」
ルイ「エルリューはさ、なんでティアさんと結婚しようと思ったの?」
エルリュー「俺は……まぁ……」
「正直……向こうがしたがってたってのがデカいが……んー……」
「まぁ、巡り合せ、かな……」
ルイ「巡り合せ」
エルリュー「縁、てやつ?」
ルイ「縁……」
エルリュー「あいつに出会ってなかったら死ぬまで結婚なんてしてなかったかもな」
ルイ「……」
エルリュー「でも悪いもんじゃねぇよ。子供は死ぬほど可愛いし、嫁もおっかねぇけど可愛いし、保護者にも安心されるし……」
ルイ「そっか」
エルリュー「だから、お前が結婚したい相手が出来たってのは、素直に嬉しいよ」
ルイ「……」
エルリュー「頑張れよ」
ルイ「うん、ありがとう」
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【場所】#東部
【人物】#ネクロ #カスタ
=====================
カスタ「そういや、誕生日おめでとう」
ネクロ「あん?ああ、そうか……」
カスタ「今年はバタバタしてたからな。総長就任とか」
ネクロ「すっかり忘れてた」
カスタ「忙しいもんなぁ」
カスタ「俺も今年は申し訳程度だけど、コレ」
ネクロ「いつまでもマメな奴……」
カスタ「そんでこっちがあいつの分」
ネクロ「……………………」
カスタ「必ず貰うように。」
ネクロ「……お前、あの時」
「俺が……」
「……」
「いや、なんでもない」
カスタ「感謝してるよ。お前の選択に。」
ネクロ「……何も言ってねえ」
カスタ「うん。」
「俺はあの時、お前が居なかったら持たなかったかもしれない」
「だから、短い間でも、一緒に居てくれたあいつの事は一生忘れない」
ネクロ「……忘れろよ」
カスタ「忘れないよ。俺にとっても、初めて殺した人間だと思ってる」
ネクロ「……お前は何も……」
カスタ「共犯、だって」
カスタ「思わせてくれよ」
ネクロ「……」
「俺がお前を道連れにしなかったら、他の道もあったかもしれない」
カスタ「そしたら、この地区はもっと荒れてたかもしれない」
「結局平和じゃないと、夢を見ることもできない」
「だからお前の考えには、心から賛同してるつもり」
「その力量があるなら、なおさら」
ネクロ「……」
カスタ「その内情勢が落ち着いたら、早期退職で退職金貰って、郊外に小さなパスタ屋でも開こうかなぁ」
ネクロ「郊外でいいのか」
カスタ「別に流行らせたい訳じゃないしね」
ネクロ「儲けないと食っていけねぇだろ」
カスタ「だから退職金が必要なんだよ。その為にあくせく働くの」
ネクロ「……」
カスタ「俺のささやかな夢の為にも今は、こうしてお前の背中を守って、仲間を守って、そうするのが最善策だと思ってる」
ネクロ「……」
カスタ「だから兄弟、後悔なんてないよ」
カスタ「今も料理はできるしね」
ネクロ「……俺も……」
「……」
「……」
カスタ「うん。わかってるよ。ネクロはシラフじゃ素直になれないからね」
ネクロ「チッ……」
カスタ「お前の根っ子は俺がずっと抱えとく。だからしがらみのないお前は好きなように思い切りやればいい。」
ネクロ「…………」
カスタ「頼りにしてるよ、兄弟。」
ネクロ「ああ……兄弟。」
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【場所】#お屋敷
【人物】#ネクロ #テル #ルイ #ロイス
=====================
ロイスの屋敷を訪れたテル、ネクロ、ルイ
大きな木に飾りつけをしている
ロイス「いらっしゃい」
ネクロ「オフじゃない。巡回だ」
ロイス「そうだったね」
テル「賑やかですね。これは……"背が伸びますように"?」
ロイス「星送りの願い札だよ。テルさんのとこはやってなかったかな」
テル「願い札」
ネクロ「願い事を書いて星送り週の最後の夜に燃やすと星に願いが届き、翌年叶うと言われている」
「北の方ではよくやる」外で燃やしたり、暖炉にくべてもいい
テル「へぇ」
「なんでも叶うんですか?」
ネクロ「いい子にしてればな」
ロイス「せっかくだから皆書いていったら」
テル「願い……願いですかー…」
ルイ「"強くなれますように"」
テル「うーん」
「総長はなんて書いたんです?熟女ハーレムとか?」
ネクロ「うるせえ見んな」
テル「いいじゃないですかー……」
《穏やかな夜を過ごせる子どもが増えるように》
テル「………」
「ああ……そうですね」
「貴方は……」
願い札を書くテル
ルイ「テルさんはなんて書いたの?」
テル「秘密です」
ネクロ「人のは覗いておいて……」
テル「無事、星まで届くといいですね」
ネクロ「子供騙しだ」
テル(笑顔)
《あの人の願いが叶いますように》
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【場所】#東部
【人物】#イワノフ #ガスト
=====================
東部自警団詰所にて
イワノフ「よぉ大将」
ガスト「おう、おつかれ」
「東部はだいぶ慣れてきたか?」
イワノフ「西より騒がしいが、まあなんとか」
「ところで最近景気がいいらしいじゃねぇか」
ガスト「いや?相変わらずカツカツだぞ?」
イワノフ「でかい拾いモンしたって聞いたぜ。目付きの悪い捨て猫」
ガスト「耳が早いな……」
イワノフ「どういう心積りなんだ?大将。まさか本気で飼おうと思って拾ったのか?」
ガスト「そんなんじゃないけど……」
イワノフ「じゃあ何か?ああいう系統が好みだったのか?そりゃ知らなかったぜ」
ガスト「違うって……他の団員にも言われたが、なんですぐそういう方向に……」
イワノフ「理由としちゃポピュラーだからだ。好きでもねぇ人間を普通は囲おうとは思わんだろ」
ガスト「囲うって……なんか語弊があるな……」
イワノフ「囲ってないと?」
ガスト「別に、間借りさせてやってるだけだ。好きにさせてるし、留め置きたい訳でもない」
イワノフ「ダチだったのか?」
ガスト「顔見知りだ……」
イワノフ「路地裏にゃ今日も貧困に喘ぐ国民が五万といるが、奴等との違いは?」
ガスト「わかってるよ、どうせ俺のは自分勝手な偽善だ」
「……たまたま雨の中目の前でボロ雑巾みたいに転がってる子供を、なんとなく屋根の下に連れてってやりかっただけで」
「皆に平等に手を差し伸べられはしないさ」
「巡り合わせだとしか言えない」
イワノフ「出たよ大将の悪癖……」
「後先考えずに行動すんのは時と場合によっちゃあ利点だが、概ね欠点だ」
ガスト「なんとでも言ってくれ」
イワノフ「あんまり迂闊なことすんなって話だ。ただでさえ落ち着かねぇ世の中で進んで重荷増やしてどうすんだ」
ガスト「アーリク、重荷どころか俺の部屋はキレイになる一方だ。今度見に来いおったまげるから」
イワノフ「へぇ最近の野良猫はハウスキーパー機能付きなのか」
ガスト「……」むっとする
イワノフ「悪かったよ、今度いいワインでも仕入れてお邪魔する。自慢の家政婦を拝みにな」
ガスト「アーリク……」
イワノフ「じゃあな~」手を振りながら立ち去る
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【場所】#北部
【人物】#イーリス #ヘルマン #ユリウス
=====================
窓辺で談笑するイーリスとヘルマン
ユリウス「……」
イーリス「あら、お兄様……」
ヘルマン「!」
ユリウス「……」
イーリス「……お兄様、こちらがヘルマンさんよ」
ヘルマン「どうも、初めまして……」
ユリウス、鼻で笑う
イーリス「……」
ヘルマン「……」
ユリウス「ヘルマン、ね……名に似合った如何にも愚鈍な面構えだな」
イーリス「お兄様」
ヘルマン「……」
ユリウス「貧乏貴族の三男坊だったか。まぁこの欠陥品にはちょうどよかろう」
イーリス「……」
ヘルマン「……」
ユリウス「身体が弱すぎて妻としての勤めはろくに果たせぬやもしれんがな。試してからの返品はご遠慮いただけると幸いだ」
ヘルマン「失礼ながら」
ユリウス「……なんだね」
ヘルマン「お兄様といえど彼女をこれ以上侮辱するのは止めていただきたい。」
イーリス「……」
ユリウス「下級貴族の分際で、口だけは達者とは滑稽だな」
ヘルマン「滑稽なのは貴方だ。」
イーリス「!」
ユリウス「……」
ヘルマン「彼女の結婚を祝福出来ないのなら、せめて傷付けないでいただきたい」
イーリス「……ヘルマンさん……」
ユリウス「……」
ヘルマン「……僕が至らないのはごもっともです。ですが、誠心誠意、この身が果てるまで添い遂げる決心です。」
ユリウス「……」
ユリウス「……勝手にするがいい。せいぜい三流とスクラップで仲良くしていることだな」
立ち去る
イーリス「……」
ヘルマン「……」
イーリス「ごめんなさい……」
ヘルマン「貴女が謝る事じゃない……」
イーリス「昔は……あんな人ではなかったんです……」
ヘルマン「……」
イーリス「病気がちな私に……ベッドの脇でいつも本を読んでくれて……」
「庭の草花を摘んできてくれたり……勉強を教えてくれたり……」
ヘルマン「……」
イーリス「兄は頭も良く、身体も丈夫だったので、両親の自慢でした……」
ヘルマン「……」
イーリス「あんな風になってしまったのは……兄に縁談が来た頃からで……」
「……」
「……ずっと私を看病するから、縁談など受けないと……」
ヘルマン「……」
イーリス「当然、周りは困惑して……」
「それから兄は……いくつも縁談を断り続け……」
「痺れを切らした父が……この縁談を……」
ヘルマン「そう、だったんですね……」
イーリス「私に夫が出来れば、兄も改心するのではと考えたようですが……」
「……」
ヘルマン「……お兄様は……愛情深い人なんですね」
イーリス「え……?」
ヘルマン「イーリスさんを、とても大切に思っていた……きっと、今もそれは変わらないんです」
イーリス「……」
ヘルマン「けれど、あまりに深い愛情は、一度裏返ると厄介で……」
「自分でも、どうすることもできないんでしょう……」
イーリス「……」
「そんな風に、考えたことなかったです……」
ヘルマン「……憶測ですけどね」
イーリス「凄いわ……」
ヘルマン「えっ……」
イーリス「ずっと胸につかえていたものが、なくなったみたい……」
ヘルマン「……」
イーリス「お兄様も……幸せになれるといいのに……」
ヘルマン「……」
「……」
「……!」
「い……イーリスさんは……今……」
イーリス「私は……幸せに……なれますでしょう?」
ヘルマン「もっ、もちろん!……」
「きっと……幸せに……」
イーリス微笑む
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【場所】#北部
【人物】#ユリウス #イーリス
=====================
リヴェロス家 居間にて
ユリウス「……どうだった見合いは」
イーリス「あら……ご興味があって?」
ユリウス「……さぞ身の毛もよだつ醜男だったのだろうな」
イーリス「残念だけれど、とても素敵な方でしたわ……」
ユリウス「……」
イーリス「元は気の進まない縁談だったけれど……」僅かに顔がほころぶ
ユリウス「……」
「……受けるのか」
イーリス「……私に断る権利があるとお思いで……?」
ユリウス「はっ!そんなものは当然ないさ」
「いつ死ぬやも分からん半死人の嫁など、貰い手がいるなら熨斗を付けて差し出すくらいだ」
イーリス「……なら、もっとお喜びになられたらどう?お望み通り貰い手がつくのだから」
ユリウス「……」
イーリス「まぁ……あちらに来ていただく形になるのだけれど……」
ユリウス「……」
イーリス「……お兄様も、散々お断りになられたお相手方に負けないような素敵な方を、何処かで見つけて下さいね」
ユリウス「……」
イーリス「楽しみにしております。」居間から立ち去る
ユリウス「……」
「……」
「……」
「そんな女が、この世に居るものか…………」
「……イーリス…………」
閉じる ∧
【場所】#北部
【人物】#イーリス #ヘルマン
=====================
リヴェロス家の静かな中庭を歩く二人
整えられた庭には薬草を中心に様々な花木が植えられている
ヘルマン「(二人で中庭に出てみたものの……)」
イーリス「……」
ヘルマン「(何を話したらいいものか……)」
イーリス「……」
ヘルマン「(それにしても……まさかうちのような三流貴族にこんな縁談が舞い込むなんて……)」
「(ご長男は何か事情がおありでか独身、妹のイーリスさんが家督を預かる為に我が家は婿入り)」
「(かなりお身体が病弱とのことで、下流の我が家との縁談は半ば捨て鉢的判断だと囁かれていたが……)」
イーリス「……ヘルマンさん」
ヘルマン「は、はい……」
イーリス「植物に……お詳しいのですよね」
ヘルマン「ええ……まぁ……好きが高じて……」
イーリス「このお花はなんでしたかしら……」
ヘルマン「ああ、それはアイリスですよ」
イーリス「アイリス……」
ヘルマン「遠い国では虹の女神の名前だと。イーリスさんのお名前も、同じ由来かもしれませんね」
イーリス「!……そうなのかしら……」目を見開いている
「もの知らずでお恥ずかしいです……」
ヘルマン「(可憐で……まるで……花木の精のよう……)」密かに見惚れている
ヘルマン「い、いえ……その方が……これからきっと、楽しいですよ……」
イーリス「え……?」
ヘルマン「ああいや……ええと……何を学んでも、新鮮でしょうから……」
「そう言っても、僕が教えられることなんて花や木の事ばかりなんですが……特に、食べられる木の実とか……」
イーリス「……クス」
ヘルマン「(笑うと、一層美しいな……)」
イーリス「どんな木の実がお好きなの?」
ヘルマン「今の時期ならアケビとか……ヤマモモなんかもいいですね」
イーリス「ヤマモモ?」
ヘルマン「所謂モモとは違う小さな粒の集まりでできた実で、ちょっと酸味が強いんですが、ジャムにしても旨いんです」
イーリス「まぁ……食べてみたい」
ヘルマン「よければお作りしますよ」
イーリス「素敵……」
「……昔から、体に負担のかからないものばかり食べさせられて、食べ物も知らないものばかりなんです」
「当家はだいぶ……古い風習を重んじる方でしたので……」
ヘルマン「……」
イーリス「きっとそのヤマモモは、身体にいい食べ物なのですね」
ヘルマン「……?」
イーリス「だってヘルマンさんは、そんなにお身体が立派なんですもの」
ヘルマン「……っ」赤面
「む、昔から……食い意地ばかり張っていたので……」
イーリス「あら、素晴らしい事だわ……」
ヘルマン「……」赤面
イーリス「素敵なことです……」
ヘルマン「……イーリスさん」
イーリス「……はい」
ヘルマン「この結婚が、貴族の古い慣習によるものだったとしても……」
「僕は……この出会いに感謝したい。そして、これからの日々を、きっと素晴らしいものにしたいと思っています」
イーリス「……」
ヘルマン「貴女と……二人で……」
イーリス「……」
ヘルマン「……もっと、気のきいた台詞が出てくればな……」
「……お恥ずかしい……」
イーリス「……」
「クス……」
ヘルマン「……」
イーリス「いいえ、私も……」
「本当は縁談など……お相手のご迷惑になるばかりで、お断りすべきだと思っていたのです……」
「……けれど……貴方となら……」薄っすらと赤面
ヘルマン「……!」
イーリス「……」
ヘルマン「……」
イーリス「(な、なんでしょう顔が妙に火照るわ……)」
ヘルマン「(顔を赤らめたイーリスさんもお美しい……)」
イーリス「(熱かしら……)」
ヘルマン「(彼女が僕の妻に……)」
イーリス「あっ……」動揺からよろける
ヘルマン「あ、あぶない!」そっと支える
イーリス「……」
ヘルマン「……」
イーリス「(逞しい腕……温かい……)」
ヘルマン「(なんて細くて軽い……)」
イーリス「……」
ヘルマン「……」
イーリス「あっ、あの……」
ヘルマン「あ、いや、すみません!どこか痛めませんでしたか?」パッと手を離す
イーリス「い、いえ……だ、大丈夫……です……」
ヘルマン「なら良かった……」距離をとろうとする
イーリス「……」裾を掴む
ヘルマン「……!!」
イーリス「……」
イーリス「あ、あの……」
ヘルマン「」心臓が高鳴る
イーリス「あ、温かいのですね……」
ヘルマン「えっ……」
イーリス「その……手……が……」
ヘルマン「手……」
イーリス「手……」
ヘルマン「……」そっとイーリスの手を握る
イーリス「……」
ヘルマン「……」
イーリス「温かい……」
ヘルマン「……」穏やかに微笑む
閉じる ∧
【場所】#南部
【人物】#ネクロ #テル #ニコ #サーリー #ザフィーラ
=====================
テル「はぁ……」
ネクロ「どうした」
テル「いや……南部の戦力分配で…外部組織が絡むので最適化が難しく……果たしてこの報告書の内容がどこまで信頼できるのか……」
ネクロ「そういやお前現地はまだだったな。そろそろあちらも頃合いか」
テル「え……?」
ネクロ「行くか。白銀郷」
◆
南本部にて
サーリー「ヤァ総長!アネには言付けしたぞ。アネはお前達をいつでも迎え入れル」
ネクロ「サーリー、感謝する」
サーリー「それにしても相変わらず小さいなお前達!何を食べたらそうなル?」
テル「食べて小さくなるって表現はあんまりしないですねサーリーさん……」
ニコ「ちょいちょいちょいちょい、東の皆さん」
ネクロ、近付いてきたニコを見る
ニコ「遠路遥々ようこそだけど、俺通さずに族長に面会しないでくれる?俺が本部長なんだけど」
ネクロ「これは失礼。南本部は本部長への連携がなっていないのを失念していた」
ニコ「分かっててやってるだろこのボンボンの青二才……」
ネクロ「今のは特別に聞き逃してやろう。ダウド南本部長」
ニコ「偉そうに……」
ネクロ「偉いからな。知らなかったのか?」
テル「というかサーリーさんを使いこなせてないあなたに問題があるのではないですか?」
ニコ「言うねぇアズラ・タル」
テル「南は民族偏見のない拓けた土地ではなかったですかね」
ニコ「いくら寛容がウリでも急に出てきた若造に上からこられて納得できる隊員ばかりじゃないんだよ羊飼い」
テル「なるほど、とりあえずメンチを切って威嚇の文化が残るのがこちらの特色という訳ですね?南部が最も田舎と言われる由縁を体現いただきありがとうございます」
ニコ「口の減らないガキ共が……」
サーリー「その辺にしろニコ、大人げない。ガキはお前のほうだぞ」
ニコ「サーリー、元はといえばお前が……!」
サーリー「ニコ、我々はこの土地の平穏を求めて手を取り合った同士。そうだな?」
「そこに本来上も下もない。我々は対等で、互いを尊重し合う」
ニコ「…………」
サーリー「お前の功名心はアネも高く評価していルがな!実に森人らしいと!ハハハ!」
ネクロ「いい副長を持っているな」
ニコ「嫌味をどうも」
ネクロ「なんだかんだ、難しい立ち回りをよくこなして貰っている」
ニコ「へぇ、お褒めに預かり光栄ですね。褒賞はその椅子でいいですよ」
サーリー「出立は日暮れだ」「夜は冷えル。暖かくしておけ」
====
ニコ「……で、なんで連絡しなかった?」
サーリー「忘れていた!」
====
日暮れ
旅支度で商人から買い付けしているサーリー
サーリー「なつめやしの実、駱駝乳のバター、干し肉、干し貝、干し魚、酒、水、缶詰、スパイス全種類、駱駝4頭に積めルだけ。支払い、護衛部南本部ニコ・ダウド」
テル「日暮れから出て危なくはないので?」
ネクロ「今日は満月だからな。ちょうどいい」
民族服の男「サーリー!」
サーリー「ザーヒル!」
「迎えだ。郷まで同行すル」
白砂漠の入り口へ着く
砂漠が光り輝いている
テル「わー……」「砂漠が青白く光ってる……」
ネクロ「白い砂が光を反射する。中心に行くほど純度が高い」
「昼間だと眩し過ぎて却って危険だ」
サーリー「駱駝に乗れルか?高原人」
テル「の、乗れますよ……!」
テル、どうにか駱駝を座らせ上にまたがる
駱駝が立ち上がるととても高い
そしてテルの乗った駱駝が道を逸れていく
ネクロ「どこへ行く」
テル「駱駝に聞いて下さい」
ネクロ「お前が操縦すんだよ……」
サーリー「ドンクサイ高原人。ならお前たちは小さいから二人で一頭に乗ればいい」
テル「……小さい小さいって……」
ネクロ「奴らからしたらそうだろうから仕方ない」
「ラハールの男は軒並み背が高いからな」
テル「白砂漠の先住民族ですよね?そんなに食生活に恵まれているとは思えないんですが」
ネクロ「それは奴らの文化によるところが大きい」
テル「文化?」
ネクロ「ラハールは女系社会で、全ての決定権を女が持つ」
「まぁ着いてみれば分かる」
満月に照らされる白銀の砂漠を行く4頭の駱駝
テル「一面砂しかないですね……」
ネクロ「国内一の面積だからな」
サーリー「ここで少し休憩すルぞ」
僅かに草木が生えた場所で駱駝を休ませる
砂を手に取るテル
テル「(サラサラだ……)」
ネクロ「粒子が細かい」
「これのお陰で車輛は砂を喰って走れなくなるし、銃火器も原始的なもの以外は軒並み動作不良だ」
「だからここでは未だに足は駱駝で、武器は弓矢や槍や剣や石」
テル「……時間が止まっているようですね……」
サーリー「ここは我々の故郷であり聖域なのだ」
「悠久の時を経ても変わらない、精霊の住まう土地だ」
サーリー「森人たちは樹こそ永遠の存在であルと崇めていルが、それは違う」
「樹はいずれ枯れル。水がなければならない」
「砂は違う。ただ砂として、そこに永遠にあル」
「この地こそが尊き永遠の世界」
テル「……精霊が住んでいるんですか?」
サーリー「そこかしこに」
「サァ行こうか。白銀郷はもうすぐだ」
◆
白い日干し煉瓦で造られた要塞に着く
テル「御伽噺の都のようですね」
ネクロ「ここは青のラハラの拠点だ。青陣営は護衛部と共助関係にある」
テル「ああ、確か赤陣営は……」
女「サーリー!」背の高い筋肉質な若い女が駆け寄ってくる
サーリー「アーヤ!」
アーヤ「《元気にしていたか!》」
サーリー「《お前もな》」
サーリー「いとこのアーヤだ」
アーヤ「お前が今の総長か」
ネクロ「世話になる」
アーヤ「森では小さい奴にも容赦がないな!その足の長さでは遠かったろう!」
テル「…………」
アーヤ「族長がお待ちだ!ついて来い!」
要塞の中を歩く一行
テル「(行商がこんなに……)」
ネクロ「ここは白砂漠の中継地点として、古来から交易で栄えてきた」
「ラハールの主な生業はこの"交易"と砂漠の"渡し"と"傭兵稼業"。長らく南部のフォレス人と対立し民族間衝突が絶えなかったが、現族長が先々代と協定を交わし、そこからは共助関係を結んでいる」
テル「(先々代……)」
ネクロ「俺が初めてここに来たのは8年前だ。それから何度か来訪している」
長身で屈強な女戦士たちの合間を行く
天蓋の奥に水煙草をくゆらす女性がいる
ザフィーラ「よく来た。ガストの子、ネクロ。護衛部隊7代総長」
ネクロ「青のラハラ族長ザフィーラ。歓待に感謝する」
ザフィーラ「くつろげ。サーリー」
ネクロたちの手には盃が運ばれる
サーリー「《アネ》」
ザフィーラ「《息災か。我が美しき甥》」
サーリー「《変わりなく》」
ザフィーラ「《うむ。たまにはゆっくりと羽根を伸ばせよ》」
サーリー「《はい。ありがたく》」
ザフィーラ、向き直り
ザフィーラ「お前、新顔だな。傷の小僧」テルに向かって
テル「……!えっ……と……」
ネクロ「父母は高原のティディク。生まれはアルバフォレス。テレジク・ラオ・キフロ。護衛部参謀。俺の"目"だ」
テル「…………」
ザフィーラ「《蒼き草原の民》か。草木の生えぬ最果ての地へよくぞ来た」
「盃を」
盃に液体が注がれる
ザフィーラ「古き友の来訪で上機嫌な風の精霊に」
一同飲み干す
テル「(!……水だ……)」
ザフィーラ「さぁさ飲まれよ」また液体が注がれる
ネクロ「……ペースに気をつけろよ」
テル「え?」
テル「(……アレッ?ちょっとアルコール臭が……)」また注がれる
ザフィーラ「他の兄弟達は息災か」
ネクロ「ああ。変わりない」
ザフィーラ「それで、弟はいつ連れてくる。もうそろそろいい歳頃だろう」
ネクロ「……それは断ったはずだが……」
ザフィーラ「風の噂に聞いておるぞ。見目麗しい戦士の子。ラハールの血に相応しい」
「女たちが手ぐすね引いて待っておる」
ネクロ「悪いがルイは献上品じゃないんだ。承諾できない」
ザフィーラ「固いことを言うな。我々の関係を強固にするのにこれ程有意な提案もあるまい?」
「ガストもそうだ。あの男……結局血を残さずに勿体ない……私が5人は産んでやったのに……」
テル「ゴフッ」吹き出す
ネクロ「……」
サーリー「ハハハ、アネはあの男が気に入っていたからいつまでもその話をすルな」
ザフィーラ「森人には珍しくいい男だった。全く勿体ない……」
女戦士「族長の好みはちょっと変わってる」
テル「…………」
ネクロ「…………」
ザフィーラ「私の懇願を無下にした上で護衛部との共助を取り付けたのだ。お前の父は食えない狼だった」
ネクロ「……」
ザフィーラ「お前ももう少し背丈が伸びて顔色も良くなればと思ったが……その健気さと父に免じて2~3人子を残していってもいいぞ」
ネクロ「謹んでお断りする」
テル「(小声で)ラハールジョークなんです……?」
ネクロ「……本気で言っている」
「お前程々にしとけよ」
テル「えっ?」
ネクロ「酔い潰れると食われるぞ」
テル「はぁ!?」
ザフィーラ「私の前で何をコソコソと。ガストの子ネクロ。お前まだ独り身だそうだな」
ネクロ「そうだが……」
ザフィーラ「お前も奴と同じで男が好きなんだろう。そいつはお前の愛妾だな」
テル「エッホ!」
ネクロ「違う」
ザフィーラ「なら私の提案を受け入れろ」
ネクロ「無茶言うな……無理なもんは無理だ……」
女戦士「族長はフラれたのいつまでも根に持ってる。八つ当たり」
サーリー「アネ、追い過ぎルと余計逃げられル。もっとじっくり詰めねば」
ザフィーラ「そうだな……」
ネクロ「……そろそろお暇する……」
テル「ごちそうさまでした……!」
あてがわれた部屋に向かう二人
明るいので灯りは持たない
テル「酒と煙でくらくらする……」
ネクロ「段々濃い酒を注いでくるんだ。最初は薄いから油断する」
ネクロ「ここでは外から奴らのお眼鏡にかなう男の血を入れて世代を繋いでいる」
テル「だからやたら背の高い美形が多いってことですか?」
ネクロ「そうだ」
「戦士として表立って働くのは女で、ここで生まれた男は主に下働きとして女に仕える」
「子を産めない女も男と同じように扱われる」
テル「階級社会ですね……」
ネクロ「護衛部は隊員を男に限っているから、族長代理として甥のサーリーが南本部に配置されているが、権威のある女の親族以外の男の地位は最底辺だな。中で子を残せる男もそういった一握りの層だけだ」
テル「さっきの食われるってのは……?僕あの感じだと取り込む対象外っぽかったですけど……」
ラハラの男「森人」
ラハラの男「イイモノアルヨ、オイデオイデ、チョットダケ」物陰から手招きしている
テル「はい?」
ラハラの男「ダイジョブダイジョブ、オモイデイタクナイ~」
テル「???」
ネクロ「《断る》」テルの前に出る
ラハラの男「《いいだろ、減るもんじゃなし》」
ネクロ「《失せろ》《触れればその指切り落とす》」
しぶしぶ男は立ち去る
テル「……い、今のは……」
ネクロ「そういうことだ」
ネクロ「内部でやるとトラブルになるが、外部の人間相手なら問題ないと。一夜の火遊びってやつだな」
「見ての通り一面砂の海でロクに娯楽もないからな。食われたくなかったら俺から離れるなよ」
テル「言われなくても離れません……!」
ネクロ「ザフィーラには6人の子がいるが全員種が違うらしい。でも奴らにとって外の男は種鞘以外の何物でもなく、子は労働力であり戦力で、これがこの地で連綿と紡がれてきた奴らの文化だ」
以下蒸し風呂に案内され入り、部屋でお茶して、テルが個室を案内されびびってネクロの部屋に寝具を持ち込んで寝るまでの流れを描きつつ
テル「…………」
ネクロ「ただああ見えてザフィーラは革新的なラハラで、知見も広く語学にも堪能で話が分かる方だ」
「だからこそ共助に承諾もした」
テル「総長、さっき話通じてました……?」
ネクロ「あの手の話題には根気強く対応するしかない」
「一昔前なら事前交渉なんてされずに槍で床に縫い付けられてその場で食われ、用が済んだら家畜の餌にされてたらしい」
テル「怪談じゃないですか……!!」「御伽の世界とか言った僕が浅はかでしたよ……」
ネクロ「まぁ…それぐらい過酷な環境に暮らしているということだ」
テル「別の場所に移り住めばいいんじゃ……」
ネクロ「……それができる奴ばかりじゃないし、それが幸福とも限らないと知っているだろう。奴らはこの地を最果てと呼びながらも、精霊に愛された永遠の都だと信じている」
テル「…………」
要塞都市からの景色を見る二人
◆
翌日・昼
外壁上部の回廊にて
テル「青のラハラの戦力評価は概ね完了しました」
「機動力の高い駱駝兵。旧時代的ではありますが火器も保有。個々の身体能力も高く、上流階級層の持つ知識量も予想以上でしたね」
ネクロ「都市部の寄宿学校を出た娘もいるからな」
「ザフィーラは徐々にここを外に開こうとしている」
テル「……そういえば、頃合いだとか言ってましたが、あれはどういう……」
ザフィーラ「仕事は進んでいるか」
ザフィーラが従者を連れて立ち寄る
ネクロ「ああ」
ザフィーラ「お前の目玉、お前に一晩中張り付いていたらしいな。愛妾じゃないなら赤子だの」
ネクロ「勘弁してやってくれ。まだ女も知らない」
女従者「おや可愛い。味見したい」
テル「(ヒィ)」
ザフィーラ「森はどうだ。少しは住みよくなってきたか」
ネクロ「……どうだかな……そうあるよう努めているが……」
ザフィーラ「変わる事は難儀よの」
「この白砂の海も日々その模様を変えてはいくが、その本質は変わらぬ」
「そして私も、他の人間と同じように老いていく」
「私の任期は今年が最後になるだろう」
ネクロ「……そうか」「後継は」
ザフィーラ「娘のファナト」「今は街に出て商業を学んでいる」
「我々はこの地を離れはしない。だが、生き方はいずれ変えゆかねばならない」
「だから、私の代で赤の陣営との決着を着けるつもりだ」
「何代も遺恨を残してはいられない。ファナトには新しい白銀郷を率いて貰いたいのだ」
ネクロ「……」
ザフィーラ「その探りで来たのだろ?ガストの子ネクロ」
ネクロ「……」
テル「……」
ネクロ「護衛部には梢外地域の治安保全に従事する責務がある」
「そこに問題が生じようとしているのなら、看過はできない」
「……ただ自治区内の事であれば、基本的には住民の判断を尊重する」
「また、青のラハラへ被害が及ぶ懸念があれば、当然我々の部隊を派兵する」
「共助の協定に基づいて」
ザフィーラ「…………」ネクロの口上に目を細めている
ネクロ「止めはしない」
「ただ青から手は出すな。俺達が動きにくくなる」
ザフィーラ「分かっておる」
ネクロ「……骨くらいは拾ってやる」
ザフィーラ「カカカ!」
「その物言い、昔のままだの」
ザフィーラ、ネクロの正面に立ち、かがむ
ネクロの頬に手を添え小声で
ザフィーラ「私の骨を拾ったら、ひと欠片、あの男の墓の脇に埋めてくれ」
ネクロ「」
ザフィーラ「葬儀に出られなかった事、ひどく悔やんだぞ」笑顔
立ち去りつつ
ザフィーラ「日取りが決まれば知らせを出そう」
その背を見送る二人
テル「族長……本当に先々代の事……」
ネクロ「あいつらにとって外の男は種鞘だと言ったな」
テル「ええ……」
ネクロ「必要なのはコミュニティーを強化する為の種であり、そこに個人の嗜好を挟む余地はない」
「ましてや族長一族となれば、自由恋愛など許されない」
「そんな中たまたま出会った好みの相手が周囲を納得させられる肩書持ちなら喜ぶのも自然なことだろう」
かつてのガストを口説くザフィーラの回想
テル「そういえば、ここでは結婚制度はないんですか?」
ネクロ「ない。子も財産も全てはコミュニティーの為のものになる。ただ最近は外の知見を得て少しずつ取り入れる動きもあるようだな」
テル「……ついでにずっと思ってた事言ってもいいですか?」
ネクロ「なんだ」
テル「総長ここならヤりたい放題じゃないですか?なんではしゃいでないんですか?」
ネクロ「よく言ってくれたなこの流れで」
テル「いやだって実際綺麗な方が多いですし、そういうの好きな人ならwin-winというか……今は家畜の餌にはされないんですよね?」
ネクロ「種を無責任にばら撒くなんてのは俺の主義とは真逆の価値観だ」
「俺は余計なことを考えずにただコミュニケーションの一環としてそれに耽りたいだけなんだよ」迫真
テル「そ、そうですか……」
ネクロ「大体俺に四六時中張り付いておきながらよく言う……」
テル「確かに離れられても困りますがそのまま強行されても困りますね……」
ネクロ「馬鹿か……」
城壁から階段を降り
武器屋等の前を歩いていく
テル「赤陣営は青との敵対関係にあるんですよね」
ネクロ「そうだ。赤は過激保守の集まりで、ザフィーラの方針に反対している」
「古来からのやり方に倣い、砂漠を渡るキャラバンを襲い、金品を奪い女子供を攫う」
「この町の武装は赤陣営との交戦の為のものだ」
テル「赤陣営に南本部は関与できないんですか?」
ネクロ「あくまで白砂漠内でのこととなると、自治権によって深入りできないのと、あとは単純に俺達の装備じゃ……」
カンカンカンカン(警報の鐘)
アーヤ「襲撃だ!建物の中へ!」
テル「襲撃……!?」避難しつつ高めの位置へ移動
ネクロ「ちょうどいい。お前よく見ておけ」
「白砂漠での戦闘がどんなものかを」
強い日差しの元、
白い戦闘用駱駝に乗った赤陣営の戦士が砂丘の向こうから現れる
駱駝の目元には日除けが施され、戦士は真っ白のローブを着ている
その場に赤い旗を突き刺すと、戦士が片腕を上げる
背後から複数の同様の駱駝兵が現れる
駱駝が駆け出す
テル「速い……!」
ネクロ「戦闘用駱駝だ。持久力よりも速さを重視して交配されている」
「この環境下では最も機動力が高い生き物だ」
「うちでも保有してるがここまでの性能じゃない」
駱駝兵が散開し、一部の戦士が駱駝から降りると、駱駝はその場に座り込む
その背に銃砲が備わっている
テル「山砲……!!」
ネクロ「《スズメバチ》!」
「少し下がるぞ」
「前はクロスボウだけだった。どっからか武器を仕入れてやがる……」
ドォン…!(外壁に着弾する)
テル「砂漠地帯特化型武装車輛!」
ネクロ「大体この手の勢力に加担するのは北壁と相場が決まっているが……」避難しつつ
テル「駱駝兵となると砂宮のほうがノウハウがありますね」
ネクロ「南部は港があるからな……中央政府の目をかいくぐって武器が流入している可能性も高い……」
テル「そうなると自治区外の案件で介入できますよね?」
ネクロ「尻尾が掴めればだが…、」目の前に着弾する
びっくりして立ち止まっている二人の前にザフィーラが現れる
ザフィーラ「おっと、こんなところで死んでくれるなよガストの子」
ネクロ「ザフィーラ、落ち着いているな」
ザフィーラ「まぁいつものことよ」
「あれは強請りだ。食料や金品を寄越せと言っているのだ」
「愚かな元同胞よ」
アーヤ「《放て!!》」ザフィーラの背後で腕を振り下ろす
青陣営から数多のクロスボウが放たれる
散り散りに砂に消える赤陣営の駱駝兵
テル「(眩しくてよく見えない……!地面の起伏も真っ白で分かりにくい……天然の塹壕だらけだ)」
ネクロ「……多分お前の方が俺よりは見えている」
「俺には明る過ぎて目がやられる……」
「ゴーグルを着けたところでガラス質の砂で傷付いてすぐに曇る」
テル「…………」
ネクロ「風の味方した昼間の戦闘はラハールの独壇場だ」
青陣営の駱駝兵が出撃する
槍を手にしている
ドォン…!
どこからか山砲が放たれる
アーヤ「《煙の根を狙え!》」
ネクロ「煙の出所を狙えと」
テル「(そうだ。連射はできない)」
青の戦士が槍を投げる
山砲を積んだ赤の駱駝兵が走り出す
ザフィーラ「《無粋な火薬を振りまいた事、後悔させてやる》」
クロスボウを構え、放つ
駱駝に突き刺さる
乗っていた戦士は別の戦士の駱駝に乗り逃げ出す
戦闘が終わり、青の戦士も引き上げてくる
負傷者が何人かいる
ネクロ「救護を手伝う」
ザフィーラ「ああ、頼む」
テルが砂漠に目をやると、傷ついた駱駝が女戦士によって止めを刺されている
白砂漠に溢れ出た血が滲みていく
サーリー「あれは砂の精霊に血を捧げたのち食べル」
「筋張っていてあまり旨くもないがな」
テル「……」
サーリー「かつて我々は白砂漠のそこかしこをああして赤で染めていた」
「しかしもう辞めたのだ。だから我々は地と対になル空の青を名乗った」
テル「……」
サーリー「お前達の青とは少し違っていルかな」
負傷した女戦士「いつつ……」
ネクロ「骨は大丈夫そうだ」手当しつつ
負傷した女戦士「ありがとう……あたしはサナー……今夜待ってるよ……」
ネクロ「こんな時くらい安静にしてろ」呆れ
「……フォレス語が話せるんだな」
サナー「皆ザフィーラに教わっているのさ……これからの時代は必要だ、ってね……」
ネクロ「…………」
サナー「なに、あたしは全然大丈夫だ!遠慮せず来てくれ!」
ネクロ「悪いがさっきのは断ったんだ」
外壁を見ているテル
ネクロ「……何か得られたか」
テル「撃ってきたのは散弾ですね。火力も充分で、包囲されたらひとたまりもないかと」
「赤の陣地はどの辺りに?」
ネクロ「赤陣営は固定拠点を持たない。テントで移動しながら生活している」
テル「それは厄介ですね……」
ネクロ「基本的には防戦だ」「ただ、ザフィーラが決着をつけると言うからには……」
テル「攻め入ると?」
ネクロ「頭領首が欲しいだろうからな」
テル「相手陣営の戦力把握はできているんです?」
ネクロ「……不十分だろうな……」
テル「攻め入るのは得策ではありませんね」
テル「あの機動力を見るに必ず取り逃がしが出るでしょう」
「それなら煽って主力を待ち受ける方が確実です」
「その間に裏から敵拠点を叩けると一番ですね」
ネクロ「具体的には」
テル「因縁の対決とあれば煽るのは族長がどうとでもできるでしょう」
「うちから狙撃兵を要塞内に配備します。屋内であれば短時間運用ならさほど砂塵の影響はないでしょう」
「確かに真昼の白砂漠での彼らの迷彩には驚きましたが、事前に対処すればさほどの脅威ではないです」
ネクロ「……」
テル「開幕、ペイント弾でマーキングするんです」
「使うなら青ですね。彼らの精神を逆撫でて優位に立てると思います」
「これならばこちらの過剰介入とならず青陣営を後押しできるかと」
テル「あとは取りこぼしについてです。後々の事を考えるとこちらの方が重要でしょう。大人数が多数の駱駝を連れてテントで生活しているとなると必ず補給が必要になりますね。白砂漠内では作物を生産できる地域はごく僅かとなれば、いずれかのオアシスから仕入れルートが伸びていることになります。しばらく各オアシス拠点に諜報を置いて赤陣営と繋がりのある業者を抑え、そこから辿っていきましょう。こうした事態に備えルートは複数確保しているでしょう。
赤陣営内部でも全貌を把握しているのは一握りの幹部でしょうから、下っ端を捕まえて吐かせるというのは効率が悪いです。ルートから暫定拠点が辿れたら物資の供給を絞らせ、焦れた都市部の仲間が動き出すのを待ちます。
外に住む協力者を押さえたのち、主力の出陣後に弱体化しているであろう残留組を丸ごと捕捉したらいいです。残留組の中に捕虜として交渉材料になる人物がいるかもしれません。そうすれば尚優位に進行できますね」
テル「いかがですか?」
ネクロ「……お前はどうしてそう攻撃的思考回路がよく回るんだ……」
テル「それは自分達を陥れたフォレス人を殲滅する方法を日々シュミレートしていたからですかね」
ネクロ「…………」
テル「もちろん過去の話ですよ。今はそんなこと考えもしません……尊敬できる人も大勢いますし、簡単に一括りにできないことはよく分かっていますので」
ネクロ「…………」
テル「あと単純に考えるのが好きなんです」
「ただ総長もご存知の通り僕はまだまだ実戦経験が足りないので……実際どこまで上手くいくかは分かりませんけど」
◆
ザフィーラ「なんだ、もっといればよいのに」
ネクロ「他の仕事もあるからな」
サーリー「アーヤ!」
アーヤ「サーリー!元気でな!」ハグ(ただの仲良し)
白銀郷を後にする一行
行きと同じくネクロの後ろで二人乗りするテル
サーリーの駱駝が先行する
ネクロ「お前の策についてだが……」
テル「はい」
ネクロ「前半は却下だ。ザフィーラが許さないだろう。青の族長としてのプライドがある」
テル「…………」
ネクロ「因縁の決着とあれば無傷で済まない覚悟はある。過剰なお膳立ては水を差すことになる」
テル「…………」
ネクロ「ただ後半はすぐに着手させる。こちらとしても武器の流入ルートを辿りたい。赤陣営の拠点の規模や動きを掴めるだけでもかなりの収穫になるだろう」
テル「…はい」
ネクロ「…却下するとは言ったが狙撃兵の配置はする。ザフィーラにもしものことがあれば共助協定に影響が出る可能性もある」
テル「…………」
ネクロ「そこは”ガストの子”として強行させて貰う。俺の手札だ」
テル「…………」
テル、僅かに俯く
空には満点の星が広がっている
テル「やっぱり貴方のやり方は真似できないですね」
ネクロ「当然だろう。立場が違う」
「真似する必要なんてない。お前はお前のままでいい」
テル「…………はい」
◆
後日
南本部からの入電
ニコ『赤陣営の仕入れルートが掴めましたよ』
ネクロ「どちらだ」
ニコ『《スズメバチ》の兵装は砂宮からでした。本国は開き直るから叩いてもしょうがないですが関連業者は全部あたって潰してます。しばらくは大人しくなるでしょう』
『ザフィーラは来月頭に赤陣営へ決闘状を出すとのことです。負ければ青の拠点を明け渡すと』
ネクロ「…………分かった。こちらも時期に合わせて現地入りする」
ニコ『えぇ~来なくていいですよ。手柄を横取りする気でしょ?』
ネクロ「……そんなもんお前に全部くれてやる。俺は内密訪問でいい」
ニコ『あ、そ~ですかぁ~?じゃ、遠慮なく』ガチャ
ネクロ「…………」
そして決闘の日となった。
事前準備は概ねうまく事が運び、天候は晴れ。微風であり、青陣営は万全の態勢でこの日に挑めたと言えた。
しかし、やはり実戦というのは机上の想定を超えてくるもので。
テル「えっ決闘って頭領同士の一騎打ちじゃないんです?」
サーリー「ワハハ古典的だな!決闘は総力戦だ!誰かが頭領首をとったらいいのだ!」二振りの曲刀を構えつつ
テル「この音ガトリングガン!?駱駝の背に!?」
「あ~~~そうですね小型精密じゃなきゃ砂を喰う影響も小さいですね!!」
「あんなの報告に上がってなかったですよ!南本部諜報!怠慢もいいとこです!!」
ネクロ「落ち着け頭下げろ馬鹿!」
女戦士「《西からの砂塵風!!》」
アーヤ「奴ら風の精霊を味方に付けたんだ!」
テル「精霊精霊って…そんなものどこにいるっていうんですか!!」
「天候操作出来たら訳ないですよ!!」
狙撃隊「砂で何も視えません…!!」
ネクロ「遮蔽物に隠れていろ!窓の位置は捕捉されてる!奴らには見えているぞ!」
要塞から少し離れた地点
剣を手に立つ両陣営の頭領
赤の首領「《ザフィーラ……ラハールの誇りを失った愚かな女……》」
ザフィーラ「《アスアド……結局分かり合うことは叶わなかったな……》」
アスアド「《森人に頭を垂れて楽しいか……一族の恥知らずめ》」
ザフィーラ「《アニこそ、盲目で居続けるのは辛くはないのか……》」
「《時代は流れているのだ……いくらこの白砂の海が変わらずにあろうとも……》」
要塞付近
サナー「…………」致命傷を負っている
ネクロ「クソ……」救命を試みている
サナー「あたし…は、ここまで…だな…戦って、死ぬ…戦士の…誉れ、だ……」
「…でも……ちょっと、だけ…森で暮らして…みたかった…」震えながら手を伸ばす
ネクロ「…………」手を握り
サナー「ああ、あんたに、見送られる、なんて……へ、部屋に、へへ…来て、欲しかった、なぁ……」
ネクロ「………………」
その様子を伺っていたテル
近付き、ネクロの肩先にそっと触れる
テル「……貴方の傷になります」
その手を払い退け、俯くネクロ
テル「…………」
護衛部隊員「部隊の被害状況報告を」駆け寄り
テル「はい」踵を返す
◆
族長の部屋
ネクロ「…………結果的には」
包帯を巻かれながらも水煙草を吹かすザフィーラ
ネクロ「勝ったか……」
ザフィーラ「私を誰だと思っておる……」
白い砂の上に残されたアスアドの身体は首を失っている
ザフィーラ「戦士として生きながら6人産んだのだ。奴とは修羅場を潜った数が違うわ」
「こちらも無傷とはいかなかったが、先々を思えば大したことはない」
「護衛部もよく働いてくれたな」
「よくよく労ってやれ」
ザフィーラ「……これで名実共に隠居の身よ……」
「流石に少し疲れた……」
ネクロ「…………」
ザフィーラ「骨の件は一先ずお預けだな……」
ネクロ「当分先にしてくれ……」
ザフィーラ「カカカ!」
「ではお前もそれまで生き永らえねばな」
ネクロ「…」
ザフィーラ「ガストの子ネクロ。覚えていろよ。息災でな」
◆
白銀郷を後にする護衛部一行
ネクロ「…………」
テル「…………」また二人乗りしている
ネクロ「…今回の戦闘の評価は」前を向いたまま
テル「……隊員の死者はなく、赤陣営は壊滅、青の族長も生還、危うい場面もありましたが、結果的には作戦成功と言えるでしょう」
ネクロ「……そうだな……」
テル「…………」
ネクロ「……いい経験になったか」
テル「はい」
ネクロ「……………」
テル「総長……」
「いい経験に……己の糧にしなくては、前に進んではいけないですよね?」
「死を悼んでも、そこから立ち上がり、足を踏み出していかなくては」
「自分の道は、彼女らの道とは違うのだから」
テル「……僕は、間違っているでしょうか……」
ネクロ「……お前は間違っていない……」
テル「…………貴方だって、きっと間違ってはいないですよ……」
帰還するキャラバンの遠景
白砂漠の出口で護衛部のジープが待っている
ニコ「あれ?総長いらしてたんですか~?いつの間に~」しらじらしい
ネクロ「…………」
ニコ「観光ですか?気楽なもんですね。羨ましいなぁ~俺も偉くなりたいもんだな~」
テル「ダウド本部長、今はちょっと……」
ニコ「本部まで送りますからとっとと乗って下さいよ」
車内
ニコ「サーリーから報告は受けてます。お疲れ様でした」
ネクロ「ああ……」
ニコ「赤のアスアドが死んだそうで。噂では奴には20人子供がいるらしくてですねぇ~遺恨が怖いので今一人残らず確保に動いているところです。街で暮らす妻が5人いるだとかでもう大変なんですよ」
ネクロ「捕まえた後どうする」
ニコ「青陣営に差し出します」
ネクロ「…………」
ニコ「自治区の事なんでね」
ニコ「深入りしないのが一番なんですよ」
「何事も程々に」
「互いの流儀を尊重して」
ニコ「あなたにはまだ難しい話だったかな?」
ネクロ「…………」
ニコ「己の無力さを実感したならいつでも椅子からどいて下さいね」
ネクロ「ニコ」
ネクロ「……お前のような奴がいてくれて正直、頼もしい……」
「イワノフがいなくなってから、隊で俺を表立って叩いてくれる奴が減った」
「中央政府や報道には散々叩かれても、中の奴から直接言われるのとは訳が違う……」
「今後もよろしく頼む。頼りにしている。ニコ・ダウド南本部長」
ニコ「…………」驚いている
ニコ「オイ参謀、こいつ変なものでも食ったのか?」
テル「色々あってお疲れなんですよ……」
東部へ帰る列車の中
テル「総長」
ネクロ「ん……」
テル「また行きましょうね。白銀郷」
ネクロ「…………」
テル「ザフィーラさん達が勝ち取った、これからの暮らしを見てみたくはないですか?」
ネクロ「…………」
ネクロ「そうだな……」少し笑みを浮かべつつ窓の外を見る
=====
◆白銀郷編コミカライズイメージラフ
冒頭16P
















ザフィーラとアスアドの対峙

ラストシーン
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【場所】#護衛部南本部
【人物】#ネクロ #テル #ニコ #サーリー
=====================
立ち話をする4人
サーリー「風の噂で総長は東部風俗街のサイフだと」
固まるニコとテル
サーリー「女どもに操られていルと」
テル「なっ……」
テル「総長は確かに貞操観念がゆるくて財布の紐もゆるいですがそんな救い用のない屑野郎って訳じゃ……」
「ちゃんといいとこもあるんです!」
ネクロ「フォローのつもりか」
ニコ「参謀は知らないかもしれないけどダメンズ養ってる女の台詞だかんなソレ」
ネクロ「確かに……」
テル「貴方が納得していいんですか?」
ネクロ「まあ金なんて俺が持ってなくても周りの奴らは身持ちが固いから問題ない」
ニコ「自然に周囲の人間を自分の財布扱いしてんぞ大丈夫か」
テル「だっ……」
テル「大丈夫です僕はタカられたことないんで……」
ニコ「お前も自分本意かよ大丈夫じゃねぇなコリャ」
ニコ「やっぱり時代は俺だなサーリー」
サーリー「ニコは性格が悪くて敵を作りやすいから難しいかもな!」
ニコ「後ろから刺してくるんじゃない」
テル「どうしたら総長が屑な面だけじゃないと証明できるのか……」
ネクロ「さっきから俺を屑呼びしてんのお前だけだかんな」
テル「僕は貴方をよりよく理解しているからこそです」
ニコ「よく理解した人間からの屑認定は熱いな」
ネクロ「屑はどんなに磨いたとこで屑ってこった」
テル「だから違……!すみません僕の言い方が良くなかったです……!」
テル「大変繊細で情の深い方なんですがちょっと精神虚弱な面があり刹那的快楽に溺れがちなだけなんです……!!」
ネクロ「フォローかこれ……」
ニコ「参謀面白ぇな」
ネクロ「そうだろ、飽きないぞ」
テル「人が真剣なのを面白がって……!」
「……」
テル「」人前でストレートに肯定されて嬉しく時間差で照れている
ニコ「なんだコイツ情緒が忙しねぇな」
ネクロ「平常運転だから気にしないでくれ」
ニコ「お前らよくこれまで舵取りやってこれたな……」
サーリー「仲が良いのは良いことだな!」
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【場所】#護衛部東本部
【人物】#テル #ネクロ #ルイ
=====================
午後からは急な雨で
残務処理は山積み
こんな日に限って古傷が傷む
今日は両親の命日
ルイ「テルさんまだ残り?」
テル「あぁ、もうちょっとだけ」
ルイ「……」
テル「お疲れ様、また明日」
執務室を出るルイ
廊下を歩いているとネクロが出先から戻ってくる
ネクロ「上がりか」
ルイ「うん……」
「なんかテルさん元気ない」
ネクロ「あー……」
ルイ「……フォローしてる?」
ネクロ「余計な世話だ」
ネクロ執務室に入る
テル「あぁお帰りなさい」
「報告事項はそちらに」
ネクロ「ああ」
テル「雨で濡れませんでしたか」
ネクロ「日頃の行いがいいからな」
テル「あぁ」「確かに……」
ネクロ「…………」
ネクロ「お前」
テル「僕、ちょっとコレ丁寧に片付けたいので、もう少し残ります」
ネクロ「……」
テル「総長は明日確認していただければ大丈夫です」
「移動が多かったのでお疲れでしょう」
「たまには真っ直ぐ帰って休息とって下さいね」
ネクロ、酒瓶と小さなグラスを二つを持ってきて机に置く
テル「?」
グラスに酒注ぐ
ネクロ「ん」乾杯を要求
テル「えっ……」
ネクロじっと睨む
テル「えぇ~……」しぶしぶ乾杯
テル「渋い!」
ネクロ「南部の老舗ワイナリーのフルボディ」
「当り年」
テル「……僕ワインてあんまり得意じゃないんですよ」ビール派なので
ネクロ白ワインを注ぐ
ネクロ「ライトボディの白」
テル「まだ仕事中なんですけど……」
「…」「あぁ、こっちは飲みやすい」
ネクロ「お前みたいな初心者向けだな」
テル「…………」
ネクロ「お望み通り真っ直ぐ家に帰ってやる」
「だからもう一杯付き合え」
テル苦笑
ネクロ「酔ったまま書類仕事したら減給」
テル「ええっ罠!?」
今日は両親の命日で
古傷の痛みは酔いに紛れ
残務処理は持ち越し
未明に雨は上がった
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【場所】#護衛部東本部
【人物】#ネクロ #テル #コナー
=====================
運動場の隅でしまい忘れのボールを見付けたテルとネクロ
テル「片付け漏れですね。こうして備品を紛失するんです」
ネクロ「お前そこに立て」
テル「はい」素直に立つ
テル「……はい?」我に返る
ネクロ「ほい」ボールを蹴ってくる
テル「えっ、ちょっ、いや僕」わたわた止める
ネクロ「パス」
テル「なっ、なんで……!仕事中……!」
ネクロ「早くしろ」
テル「僕サッカーなんてできないですよ……」
ネクロ「パスくらいできるだろ」
テル「いやホラ真っ直ぐいかないから」へなへなに蹴る
ネクロ「俺はこれくらいが運動量的にお互いバランスがいいと踏んでいる」あちこち蹴られるテルのボールを拾いに走りつつ
テル「な、なるほど……?」
ネクロ「お前はチェス打ちながら考え事をするのが定番だが、これはこれで悪くないぞ」
テル「そうですかね……」
ネクロ「ガキの頃やらなかったか」
テル「やらなかったです……本ばかり読んでましたから……」
ネクロ「そうか」
テル「苦手なんですよ」
ネクロ「つまらないか?」
テル「……そうでもないです」
ネクロ「はっ」笑いつつパスを続ける
本部の窓から二人を見かけたコナー
コナー「おや、いないと思ったら……」
「……」
「相手がいるっていいもんだねぇ、テル君」
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【場所】#お屋敷
【人物】#ロイス #ネクロ
=====================
ロイスの自室でワインを開けている
ロイス「君さ、テルさんとは2人で飲んだりしないの?」
ネクロ「……しない」
ロイス「彼飲める人だよね?」
ネクロ「誘っても断られる」
ロイス「フッ……」吹き出す
ネクロ「何が面白い……」
ロイス「フッ…フフ…フラれてるんだ……」
ロイス「どんな感じに?」
ネクロ「……出張先とかで良さげな飲み屋があって、一杯やるかって聞いても「仕事中なんで」で終わる」
ロイス「宿では飲まないの?」
ネクロ「俺は飲む」
ロイス「テルさんは飲まないんだ」
ネクロ「俺が飲むなら尚更飲めないと言う」
ロイス「なるほどね……でも君さ、いざ2人で飲んだら先には潰れないんじゃない?」
ネクロ「……」
ロイス「部下の手前、気を張るでしょう」
ネクロ「まぁ……」
ロイス「どっちもどっち」
ネクロ「俺は別に……常に上下関係を意識している訳でも…」
ロイス「でも向こうは違うんだねぇ」
ロイス「真面目だなぁ~テルさん」
ネクロ「ちょっと意固地なとこがある」
ロイス「でも発想は柔軟だって褒めてたじゃない」
ネクロ「仕事はよくできる」
ロイス「つれなくて寂しいんだ」
ネクロ「…………」「別にちょっとくらいよくないか」
ロイス「そうだねぇ~」
ネクロ「捕って喰おうってんじゃねぇのに……」
ロイス「フンッ」吹き出し
ネクロ「お前のツボがよく分からん……」
ロイス「警戒されてて笑える……」
ネクロ「……信頼はされてるつもりなんだが……」
ロイス「……向こうの問題かもよ?」
ネクロ「……?」
ロイス「信頼」「自分に対する」
ネクロ「何故」
ロイス「……君って時々平和だよね…」
ネクロ「馬鹿にするニュアンスなのは判るぞ」
ロイス「彼の意識が変われば、その内付き合ってくれるようになるかもよ」
ネクロ「……」
ロイス「こうなるとテルさんがちょっと不憫だねぇ」
ネクロ「不憫なのは俺じゃないのか」
ロイス「君は平和だよ」「とりあえず私で我慢しておいて」
ネクロ「それはそれ……」
ロイス「そういうとこあるよねぇ」
「欲張りだけど器用だからさ……ちょっとムカつくよねぇ」
ネクロ「なんで今日こんなに当たりが強いんだ……」
ロイス「やだなぁ私はいつも君に優しいよ。アポ無しで部屋に忍び込まれても怒らないしね!」
ネクロ「………」
ロイス「嬉しいからね。遊びに来てくれるのがさ」
ロイス「あとまぁ、私は潰れないからね」
ネクロ「クソ……」
ロイス「テルさん、酔い方に不安があるんじゃないの?」
ネクロ「飲んだことある奴に聞いてもそういう話は…」
ロイス「じゃあやっぱり原因は君だね!諦めて!」
ネクロ「……俺が何したって言うんだ……」
ロイス「あんまりしつこく誘うと余計嫌がられるよ」
ネクロ「しつこくは……してない……」
ロイス「でも飲んでる君と一緒には居てくれるんでしょ?いいじゃないそれで」
ネクロ「俺は互いに酒が入ってる状況を免罪符にしたいんだよ……」
ロイス「そういう思考を危険視されているんだね……」
ネクロ「何でだよ……」
ロイス「お酒がないと腹を割れない?怖い?」
ネクロ「…………」
ロイス「私だって今ほとんどシラフのようなものだよ。君達はさ、きっとそれがなくても充分近くにいるんだよ」
ネクロ「……」
ロイス「だからテルさんは、それ以上にならないように気を付けてるってこと……」
ネクロ「それ以上……」
ロイス「…………」
ネクロ「…………」
「…………??」
ロイス「ダメだね、君は結構回ってるね」
ロイス「ここまで眼中にないかぁ……余程の信頼なんだねぇ……」
ネクロ「???」
ロイス「まぁ君、一度気を許した相手には信頼を大盤振る舞いするとこあるけどね」
「テルさんは多少……そうかぁ……」
ネクロ「オイ、俺に理解させるのを放棄するな……」
ロイス「気持ちは分かるんだよねぇ……君、私のこれまでの人生で一番、悪意無くぐいぐい近付いてきたからさ……」
「まぁ、ドキっとしちゃうよね……」
ネクロ「…………」
ロイス「やっぱり自分の内面との向き合い方だから、君がどうこうできるものではないよ」
ネクロ「俺が原因だとか言っといて……」
ロイス「私と飲む時みたいにぐだぐだ潰れたいなら諦めた方がいいかもね」
ネクロ「何のための酒なのか……」
ロイス「何のためだろうねぇ……」
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【場所】#東部
【人物】#ミヤ #テル #ネクロ
=====================
アパートの窓から外を眺めているミヤ
ミヤ「お兄今日仕事だっけ?」
テル「そう、泊まりで中央だから9時に総長が車で迎えに来る」
ミヤ「ふーん、お土産よろしく」
「……あれ護衛部の車じゃない?」
テル「どこ?」
ミヤ「そこ」
テル「総長!!」
「エッ早い」
「待って荷物」バタバタと自室に走る
ミヤ「総長さんなの?影でよく見えないわ……」
「お兄靴下洗面所だからねー」
テル「先に言えよ!」
ミヤ「昨日言ったわ!」
「あ、降りてきた」
テル「えっ」窓から身を乗り出し
「早いですね!ちょっと待って下さい今行きます!」
アパート前に停めた車の脇にネクロが立っている
ネクロ「別件もあって前乗りになっただけだ」
「時間通りでいい」
テル「いや行きます!」窓から引っ込み
「アレ?俺の歯ブラシは!?」
ミヤ「ボロボロだから新しいのに入れ替えた。だからそこの持ってって」
テル「言えよ!」
ミヤ「それも昨日言ったわお兄生返事してたわ……」
ネクロ「……悪いな休日の朝から騒がせて」
ミヤ「いえー」
ネクロ「滞在は2日の予定だ」
「それまで借りてくぞ」
ミヤ「どうぞどうぞお構い無く」
「全然、むしろありがたいので、兄をどうぞよろしくお願いします」
テル「行ってくる!」ドア閉め音
ミヤ「走ってまた落ちないでよー」
ネクロ「落ちたのか」
ミヤ「前に階段で足踏み外して踊り場まで」
ネクロ「…………」
ミヤ「あ、あいつ案外丈夫なんで、ケガとかはなかったんですけど」
ネクロ「そうか……」
テル「お待たせしました……!」階下に到着する
ネクロ「時間通りでいいと言っただろ……」
テル「そっちが前乗りしたんでしょう」
ネクロ「思ったより用事が早く片付いたんだよ」
「朝飯は」
テル「食べました」
「総長は?」
ネクロ「駅前で買う」
テル「運転代わりますよ」
ネクロ「市外に出てからでいい」
「ところで階段から落ちたとか」
テル「エッいやそんな大したことはなく……もう結構前ですよ」
「あっアパート損壊させたりしてないですよ」
ネクロ「それは別に……元から古いしな……」
テル「えっじゃあ純粋に僕の心配してくれたんですか」
ネクロ「荷物大丈夫か」スルーする
テル「大丈夫です」
ミヤ「嬉しそうにしちゃってぶりっこヤロー……」
ネクロがミヤに会釈する
ミヤ「あっ……」ペコ
車が走り去っていく
ミヤ「気を付けて」
「いってらっしゃい」
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【場所】#護衛部東本部
【人物】#ネクロ #テル
=====================
政府役人「……!ようやくか……」
本部に帰還した二人を苛立った様子の役人が迎える
ネクロ「お待たせを」
政府役人「全く君ねぇ……!あちこち出歩くのはもっと控えて貰わんと!いつまでもヒラ隊員のような感覚では困るんだよ!」
ネクロ「……」
政府役人「総長っていうのは必要な時すぐ連絡がつくようもっとじっとしているべきだ。何でわざわざ出向いたこちらが何時間も……」
テル「失礼ですが護衛部においてはその限りではないかと」
政府役人「なに……?」
テル「過去に2人式典中に暗殺されています。所定の位置にただ収まっていることが脅威になることもあるのです」
政府役人「ハッ……流石野蛮な高原人は思考回路が違うな」
ネクロ、役人に詰め寄り
ネクロ「野蛮は礼儀も知らぬそちらでは?折角のハイエンドも中身がこれでは形無しだ」
「それとも道化を気取るために敢えてそうされているのですかね」
◆
役人が帰ったのち
テル「……まぁあの方の言い分も理がありましたけどね。実際不便ですし」
ネクロ「ならさっきそう言えばよかっただろ」コーヒーを飲みつつ
テル「言い方がムカついたんで……」
ネクロ「俺もだ」
テル「……」
ネクロ「……」
テル、ふっと吹き出し
テル「やっぱり僕らまだ、我慢の足りない子供かもしれませんね」
ネクロ「我慢なら充分身に着けてるだろ。あいつが梢外の道理を知らないだけだ」
テル「だって貴方も移動の疲れで最初からイラついてたでしょ」
ネクロ「ダラダラしてぇのに開幕あの顔で最悪な気分だった」
テル「あっはは」
ネクロ「中央勤務も楽じゃないだろうな、あんなのが集ってるとこに毎朝出勤だなんて拷問だ」
テル「東本部も中々のムサ苦しさかと思いますが」
ネクロ「この埃っぽさのが落ち着く」
テル「………」笑顔でしみじみとネクロを見ている
テル「…そうですね」
「一息ついたら次の仕事を始めましょう」
ネクロ「…おう」
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【場所】#東部
【人物】#ネクロ #テル
=====================
東部郊外
ガタガタした道を車でいくネクロとテル
テル運転
ネクロ「酔う…………」
テル「こんな悪路でお行儀よく運転できるわけないでしょう」
ネクロ「普段から大概……」
テル「責めるなら昨夜深酒し過ぎたご自分を責めて下さいね」
ネクロ「あれはお前が……調子乗るせいで……」
テル「チェスで負けたら1グラスなんて勝手にやりだした貴方が悪いでしょう」
「どうせ負けるんだから……」
ネクロ「うるせ……そういう気分だったんだよ……」
テル「全く、支部視察に行くのに同行者が二日酔いで潰れてる僕の身にもなって下さいよ」
ネクロ「お前も面白がって打ってただろが……」
テル「はい。どんどん勝率下がるのに続ける姿が面白かったです」
ネクロ「連帯責任……」
テル「それでいいので町に着くまで大人しくしてて下さいね」
◆
テル「着きましたよ総長」
テル「総長?」
ネクロ「(助手席で寝ている)」
テル「…………」
「(今日のスケジュール)(宿確保、支部視察、主要施設挨拶、周辺巡回…)」
とろとろ車を走らせる
テル「すみませーん、宿探してるんですが」
町人「2軒あるよ」
テル「安い方で」
安宿の前で
テル「(ボロ~~~~…)」
テル「(宿の店主らしきおじさんに)1部屋とれます?」
店主「あいよ」「ベッド二つ?」
テル「二つあると嬉しいです」
店主「うちは狭いから二つあるのは大部屋だけでね。料金このくらい」指で示す
テル「あー……ならー……一つでいいです……寝具だけもう一組借りていいですか?」
店主「あいよ」
テル「夜にまた来ます」
店主「夕食は」
テル「外で」
店主「あいよ」
助手席のネクロを見る
ネクロ「(未だ寝ている)」
テル「(…とりあえずお腹空いたな…)」
とろとろ車を走らせる
屋台の前で
テル「すみませんチキンサンド二つ、お茶も二つ」
屋台のおばさん「はいよ~」
屋台のおばさん「お兄さんたち見かけない顔だね。どっから来た」
テル「東部市内です」
屋台のおばさん「峠道越えてきたのか。大変だったろ」
テル「ええまぁ」
屋台のおばさん「熱いよ」
テル「ありがとうございます」
町を見下ろす丘に移動
ネクロの耳元で緊迫感ある調子で
テル「……総長」
ネクロ「(起床)」
テル「おはようございます。お昼です」チキンサンドとお茶を渡す
ネクロ「………………」
「………………」
「………………」状況把握中
テル「着いたので宿とりました。支部へはまだです。ひとまずお昼食べましょう」
ネクロ「……………」
テル「僕だって総長を寝かしたままで運転することくらいできるんですよ」
「見直して下さいね」
ネクロ「……ああ……うん……まぁ………」
「…………」
「……悪い……」
テル「別にいいですよ。少しは気分良くなりました?」
ネクロ「だいぶ……」お茶を口に含みつつ
テル「何よりです」
テル「さて」食べ終わり
テル「始めますか」
ネクロ「おう」
◆
支部にて
隊員「はぁ?総長?聞いてるか」
隊員「聞いてない」
ネクロ「今月中に視察すると通達したはずだ」
隊員「本当にこれが総長?」
隊員「小さいな」
老隊員「おぉ~坊ちゃん」
ネクロ「生きてたかじいさん」
老隊員「生きてたよぉしぶとく」
ネクロ「何より」
隊員「ジジイと知り合いだ」
隊員「エッじゃあ本当にあれが……」
テル「執務室案内して貰えます?」
支部長「いや~~~!事前に一報頂けたらお迎えに!」
テル「お忙しい中すみません。できるだけ普段の様子を視察したいので」
「今月中に伺う旨は先月文書でお知らせしていたかと」
支部長「いや~~~~~」事務方を見る。首を振る事務方
支部長「いや~~~~~」
ネクロ「どうだ」
テル「ちょっと動線よくないですね」部屋の配置を眺めつつ
「他の部屋の案内もお願いできますか?」
支部長「ああはい!お前……!」事務方に手振り
テル「いえあなたに」
支部長「わ、私……!?」
ネクロ「お前がここの責任者で一番の高給取りだろう」
支部長「いや、そう、ですが……」
ネクロ「お前が一番の視察対象なんだよ。せいぜい張り切って仕事しろ」
隊員「支部長連れ回されてら」
隊員「あの人なんも知らねぇもんな」
テル「ここは?」
支部長「ほ、保管庫……ですね……」
ネクロ「中を検める」
テル「はい」保管物を確認するテル
ネクロ「やましいことがないなら落ち着いて構えていろ」
支部長「や、やましいなんてそんな……」
テル「保管期限切れの文書が大量に」
ネクロ「破棄の期限は守れ。場所代もタダじゃない」
支部長「は、はい勿論……!」
テル「人手が欲しいですね。2人」
ネクロ「じいさん」
老隊員「あいよぉ」
ネクロ「事務仕事得意な奴、手伝いに2人見繕ってくれないか」
老隊員「ほほ!頼られると嬉しいもんだの」
支部長「ぜ、全部検めるので……?」
テル「破棄物品に都合の悪いものを紛れ込ませておくのは常套手段なので」
支部長「そんな、まるでうちが不正をしている前提のような……」
ネクロ「そうは言ってない。ただ現行規則を守っていない以上、信頼性を失っていてもやむを得ない」
「大体本当に不正調査ならもっと大所帯で来る」
支部長「…………」
ネクロ「お前の把握が甘いのも一因だからな。立場に見合った仕事をしろ」
「できないなら他の適任者に任せる」
支部長「(前総長は視察なんて一度も来なかったのに……)」
テル「…………大丈夫そうですね」
ネクロ「ご苦労」
テル「ただ複数書類で書式が更新されていません。効率化を図って改めたものなので通達通りに即時更新して下さい」
支部長「げ、現場も慣れと言うものがあって……」
テル「その上で更新したほうがいいと言っているんです。現場上がりの判断ですのでどうぞ信頼なさって下さい」笑顔
ネクロ「従わないなら背任行為として減給」
支部長「即座に……!!」
ネクロ「この部屋は」
支部長「ええっと」分からない
テル「この箱は」
支部長「ええっと」分からない
ネクロ「この服は」上等なスーツ類
支部長「ええっとー!」
テル「替えた方がよくないですか」
ネクロ「もう少し見てからだ」
老隊員「支部長さんはね、ちょっと欲深だが優しい人だよ」
老隊員「あとちょっと適当だけどね」
ネクロ「……なら結構適任だな」
老隊員「そうだよぉ」
テル「とりあえずこのくらいですか」
ネクロ「管轄地域の見分に出る。詳しい者に同行を頼みたい」
支部長「は、はいっ」
ネクロ「本当はお前にそうであって欲しいがな」
支部長「面目ありません……!」
周辺地域を回る
支部に帰還後
テル「事務補佐官を増員します」
支部長「えっ」
テル「主に事務処理が追いついていないようです。周辺視察の結果、当支部管轄地域には現状特筆すべき脅威は見当たりませんでした。護衛部の活動が行き届いている証拠です」
「取り急ぎ適正隊員への講習を行い、来期の配置交換でも事務に強い隊員を送ります。裏方業務が整えば今より現場への負担も減り、より支部運営が円滑になるでしょう」
「書類整理が滞った組織は汚職の温床となりやすいです。草の根から自浄していきましょう」
◆
支部長「本日はご足労いただきありがとうございました……よかったらご一緒に夕食でも……」
テル、ネクロを見る
ネクロ「それでは、お受けする」
支部長宅で食事したのち、宿へ向かう
支部長「お泊りはどちらで?」
「エッあのボロ…よ、よかったらうちへ……」
ネクロ「いや、環境視察のうちだ。心遣い感謝する」
宿へと歩く
ネクロ「……にしても、自分の机は散らかし放題でよく言う」
テル「あれは僕なりに秩序立っている状態なんです」
ネクロ「散らかす奴は皆そう言う……」
テル「総長のお宅でも散らかす方いました?」
ネクロ「ヒゲ」
テル「先々代……」
ネクロ「後でやろうと思って置いたこと自体を忘れる」
「そのうち適当に置いたその場所を新たな置き場にして延々に積み重ねる」
テル「耳が痛いです」
ネクロ「あの家は、エルリューが人が散らかしたもんを片付けることへ異様にストレスがない奴だったからどうにかなっていた部分がある」
テル「怒ったりしないんですか」
ネクロ「いい加減にしろとはよく言っていたが、さほどイラついている風でもなかった」
テル「いいなぁ……うちにも来てくれないですかね……」
ネクロ「自分の分くらい自分でやれ」
「でないとそのうち俺がアポなしで行くぞ」
テル「えっ掃除しにですか」
ネクロ「掃除しに」
テル「…………悪くないですね……」
ネクロ「拒否反応を示せよ……」
テル「確かに嫌な部分もありますが、同時に楽しみな部分もあります」
ネクロ「自室の汚さを上司に晒すことに楽しみを抱くな」
テル「だってなんか……楽しそう」
ネクロ「…………」
テル「そんなのなしに来ます?たまには」
「妹も喜ぶだろうし」
ネクロ「お前がそれまでに部屋を片付けるならな」
テル「いや~ちょっと見てみたいと思ってません?想像通りかどうか」
ネクロ「お前の評価に関わる可能性があるぞ」
テル「今更~」
ネクロ「随分ナメてんな……」
テル「えへへ……」
ネクロ「……お前さっき飲んでないよな」
テル「ないですよ」
ネクロ「随分上機嫌だな」
テル「楽しいだけです」「全部」
ネクロ「…………」
テル「さて、宿に着いたらベッド権を賭けて一局打ちますか」
ネクロ「お」
テル「先に言っておきますけどもう飲まないで下さいね」
ネクロ「一杯ならよくないか」
テル「ダメです」
ネクロ「ならお前が飲めよ……」
テル「どんな条件で??」
ネクロ「というかお前どっちなんだ。床と」
テル「勿論……運転して疲れたので勝ったらベッドですね!」
ネクロ「まぁ、そうだな」
テル「やっぱり床にします」
ネクロ「いや大人しくベッドにしろよ」
テル「総長に死に物狂いで打って欲しいので床にします」
ネクロ「流石にこれくらいで死に物狂いにはならねぇよ……」
テル「まぁ実はちゃんと寝具借りてるので床でもそんなに悪条件じゃなさそうですけどね」
ネクロ「なんだよ……」
閉じる ∧
【場所】#道すがら
【人物】#ネクロ #テル
=====================
ジープに乗り込む二人
運転手はテル
テル「全くなんで本部長会合の前に限ってバタつくんですかね」
「資料これです目を通しておいて下さい」
「コーヒー足元のボトルに入ってます」
「飛ばしますよ」
ネクロ(疲れてバテ気味)(資料をめくる)
テル「(急ハンドルをきりながら)前回西部勾留所拡張案の件で北部と意見対立してましたけど拡張先について別案が出たとのことで、(急ハンドルをきりながら)三つの候補地から妥協点を模索していけたらなというのが第一議題なんですけど、それについて南部からも消極的ながら要望があり詳細については(急停車)4ページ目末尾に記載しているんですが確かにここ数年の治安指数を考えるとその地域に悪影響がないとも(急発進)言えないかなと、関連資料を添付しましたのでそれは6ページ目に……」
ネクロ「(蒼白)」
ネクロ「停めろ」
テル「わわわっちょっ危ないです!」
ネクロ「いいから今すぐ停めろ運転を替われ」
運転交代
ネクロ「最初からこうすりゃよかった……」
「資料はお前が音読しろ」
テル「えぇー……」
ネクロ「お前は入り抜きが雑すぎんだよ」
「緩急は必要だが予備動作は大事にしろ。自分本意な動きばっかりすんな。次にどう動くか読めないとストレスになる」
テル「……すいません、何の話です?」
ネクロ「運転だ」
ネクロ「そういうとこが童貞なんだぞ」
テル「いやそれとこれとは関係ないでしょう!?」
ネクロ「大いにある」「いい店紹介してやるから今日にでも卒業してこいよ……」
テル「嫌です」
ネクロ「何でだよ金持ってるくせに……」
テル「総長は解決策をなんでもかんでもそこに求めすぎですよ」
ネクロ「俺の経験談から言ってんだから素直に受け取れよ」
テル「人には向き不向きがあるんです」
◆
ネクロ「……建設的じゃないなキフロ参謀」
「このままじゃお前は一生助手席で会議資料を音読する羽目になるんだぞ」
テル「一生聞いててくれるなら本望ですー」
ネクロ「(ふざけんなという顔)」
テル「あ、すみませんちょっと調子乗りました。善処します」
ネクロ「じゃあ俺の運転頭に叩き込め」
テル「見て覚えられるものでもないですよ」
ネクロ「感覚で掴め」
テル「感覚ってそんな……抽象的で苦手なんですよ……」
◆
テル「寝そうです……」
ネクロ「起きろ」
テル「緊張感が失われるという点はデメリットなのでは?」
ネクロ「お前の運転だと緊張以外に何も得られない」
テル「そんなにですかねぇ……」
テル「……総長昔からこんな運転丁寧なんですか」
ネクロ「……雑な時期もあった」
テル「どうやって上手くなったんです?」
ネクロ「ベテランにはガキ臭い運転じゃ相手にされない」
テル「結局女遊びなんですね」
「お好きですね~~~~」
ネクロ「なんとでも言え」
「身になってればキッカケはなんでもいいんだよ」
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【場所】#護衛部東本部 #護衛部北本部
【人物】#テル #ネクロ #クレマン
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テル「申請書!?書類の照会を本部から打診しているのに申請書を求めるんですか!?」
「何故電話連絡しているんだと思います?急ぎなんですよ!」
「だから過去の資料の照会依頼です。詳細は本部長に直接伝えます」
「例外って……いやそちらがこちらからの請求を拒否する権限なんてないんですからそちらが例外的対応を……」
ネクロ「……替われ」
テル「………」
ネクロ「……」
テル「……」しぶしぶ替わる
ネクロ「総長のネクロだ。クレマンを出せ」
「いいから替われ。至急の案件だ」
「お前に文句が言いたいんじゃない。クレマンに言う。お前の落ち度にはならない。いいから繋げ」
「……」
「……主人に替われ」
「二度手間だ。時間が惜しい。居るんだろう」
「じゃあこう言え。照会請求を受けてもどこに何が保管されているか全く把握していないお飾りの本部長ではなく実務担当者を出せと言っていると」
「……」
クレマン『何を騒いでいるのだ……』
ネクロ「あんたがキフロの連絡を軽視するせいで騒ぎになっているんだ」
「言ったはずだ。総長代行権限を与えていると。キフロの連絡は率先で対処しろ」
テル「……」
クレマン『総長、代行……何の後ろ盾も持たないアズラ・タルが……』
ネクロ「もしかして加齢による難聴か?クレマン。急ぎの案件だと再三言っているはずだ」
「喧嘩を売るなら別の機会にしてくれ」
クレマン『ネクロ君……物事には流儀というものがある……我々が君のアズラの言う事を二つ返事できくというのは……あまりにそう、無作法だ……』
ネクロ「………」
クレマン『君にも言ったはずだ……北には北の流儀があると……中央には中央の……草原には草原の流儀があるように……』
ネクロ「いくらグダグダ言おうと現護衛部の最高責任者は俺だ。俺の代には俺のやり方を通させて貰う」
クレマン『なら私の首を刎ねるかね……』
ネクロ「…」
クレマン『刎ねてみるかね……東本部長……もう君の義父上はいないのだよ……』
テル「……総長……」
ネクロ「………」
クレマン『まあいい、それで、用件はなんだったか……今回は例外的に対処しよう……東本部の礼儀がなっていないのはよくよく承知しているからな……』
◆
テル「……目に余ります」
ネクロ「……」溜息
テル「立場を誤認している。中央寄りとはいえ所属は護衛部である以上総長に従わないのは隊則違反です」
ネクロ「……そうだな……」
テル「本当に挿げ替えてしまっては?」
ネクロ「誰に」
テル「北の人間以外に」
ネクロ「それをやるなら中身を丸ごと入れ替える必要がある……」
テル「その方が話が早そうですが」
ネクロ「同時に葬られる案件も山ほどあるだろう……」
テル「結局北を優遇するのは資金面の問題ですよね?」
ネクロ「まぁそうなる……」
テル「北を切ろうとすると第一と北の連合と東西南護衛部で内乱に?」
ネクロ「充分あり得る……」
テル「金貨をちらつかせてふんぞり返るなんて山賊と大差ないじゃないですか」
ネクロ「奴らをまるごと掃除してあの土地を得られれば言うことないが、考え得る代償が大きすぎる……なだめすかして上手く転がしていくのが現状最適解と言えるだろう……」
テル「何故クレマンは先々代のことを?」
ネクロ「……」
テル「先々代は北本部との関係が良かったですよね」
ネクロ「俺も詳しくは知らない……」
テル「………」
ネクロ「いっそロイスを北に置けたら楽そうなんだが……」
テル「絶対嫌がりますよね」
ネクロ「死んでも嫌だと言うだろう……」
テル「どこかに貴族の三男とかいないんですか……適度に北と繋がりのある……」
ネクロ「三男は大体北本部にいる……長男次男は一軍だ」
テル「コナー先生に中央から派遣して貰うとか……エルリューさんがいるじゃないですか!」
ネクロ「あいつが受け持ってんのはヒヨっ子だ。使えるとして5年後かそこらだろ……」
テル「兄弟筋とか……」
ネクロ「今度打診してみろ……」
テル「取り持ってくれないんですか」
ネクロ「……」
テル「もしかしてエルリューさんに頼るのが気まずいとかそういうアレですか」
ネクロ「……」
テル「私情を挟まないで下さいよ仕事なんですから」
ネクロ「あいつに高度な采配を期待しても無駄だぞ……」
「確かに情には厚いがそれだけだ」
「あとはやたら的当てが上手いだけだ」
テル「何もそんなに下げなくても……」
「……あ、そうか、エルリューさんを護衛部に関わらせることに抵抗があるんです?」
ネクロ「……」
テル「そっちか……」
「あー……」
「まぁ確かに……」
ネクロ「この話は終わりだ」
テル「やっぱりエルリューさんのこと好きなんですね」
ネクロ「終わりだ」
テル「ほんと遠回しですよねぇ」
ネクロ「何度も言わせるな」
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【場所】#東部
【人物】#ネクロ #テル
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食事の準備をする二人
テル「手際がいいですねぇ」
ネクロ「お前は何度言ってもそれだな」
テル「最低限はやれてません?」
ネクロ「そこで満足するなよ……」
ネクロ「全く……お前とは一緒に暮らせそうにないな」
テル「残念です」
ネクロ「そこで改めようって気にはならねぇのか」
テル「総長、僕と総長は四六時中生活を共にするよりも、適度な距離を保っていた方がお互いうまくいく、ということですよ」
ネクロ「なるほど……」
「(なんだこの浮気相手に結婚持ちかけてあしらわれたような感覚は……)(経験ねぇけど……)」
ネクロ「(慕われているとは思うが、俺の為に改めようってほどじゃねぇんだよな……)」
テル「ガッカリしました?」
ネクロ「は?」
テル「こうしてご一緒している内は、誠心誠意やりますよ」
ネクロ「言い回しがな……」
テル「?」
ネクロ「なんでも……」
ネクロ「ならその適当なのどうにかしろ……」
テル「ええーこのくらいで充分でしょー」
ネクロ「これだよ……」
テル「というか総長、そこで僕が一念発起したとして、実際に一緒に暮らす気あるんですか?」
ネクロ「………」
テル「自分は冗談なのに相手には誠意を求めるってどうなんでしょう」
ネクロ「(ぐうの音も出ない)」
テル「…冗談でないならちゃんと真剣に考えますよ」
ネクロ「…………」
テル「実践するかは別ですけどね」
ネクロ「そうかよ……」
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【場所】#道すがら
【人物】#ネクロ #テル
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テル「前は吸ってたんですよね」「煙草」
ネクロ「……ああ」
テル「よく止められましたね。総長のことだから依存しそうなのに」
ネクロ「あのな……俺は何にしたって自制はできてる」
「依存ってのはそれ無しじゃままならないレベルの話だろ」
テル「そうですかね~」
「どうして止めたんですか?」
ネクロ「……別に、大して旨くもなかったし……」
「背も伸びないってんで、止めた」
テル「止めたら伸びました?」
ネクロ「多少」
テル「ならよかったですね」
ネクロ「お前は吸ったことないのか」
テル「僕は全然……父親は時々吸ってましたが……」
「寝落ちして本が燃えたら困りますし」
ネクロ「賢明だ。お前ならやりかねない」
テル「ひどいな」
テル「(――嘘だろうな、と思った)」
「(でも、追及したところでどうなるのだろう)」
「(話したくないことなら、知らないままでいいんじゃないか)」
「(知らないままでも、それが僕の知る貴方の全てなら)」
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【場所】#護衛部東本部
【人物】#ネクロ #ガスト #イワノフ
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訓練に遅刻して来たネクロ
先輩につまみ出される
その後先輩と二人、執務室へ
ネクロ「…………」
ボロボロになっている
横につまみ出した先輩
こちらもボロボロになっている
ガスト「……」
先輩「訓練に遅刻し、態度への注意を行いました!」
ガスト「………」
「(アゴに擦過傷(蹴られたと予想)、腕など全て”下から”の汚れ……)」
ネクロに目をやる
ガスト「(髪を掴まれたか……襟を強く引かれてボタンが取れかかり……)」
「(全面に多くの土汚れ……)」
ガスト、彼らの後方に立つイワノフに目をやる
イワノフ、呆れたような視線を返す
ガスト「…………」
「言い分は?」
ネクロ「……こいつ、案外肝が据わってる」
ガスト「……」軽く笑み
先輩「……?」
ガスト「ご苦労」「後は任せる」
イワノフ「了解」
先輩とイワノフが執務室を出る
ガスト「……」
ネクロ「……」「で」
ガスト「……」
ネクロ「処罰は」
ガスト「……明日朝、用具清掃」
ネクロ「了解」立ち去ろうとする
ガスト「他には」
ネクロ「……」
ガスト「言いたいことはないのか」
ネクロ「…………」「ない」
ガスト「…………」
ネクロ、執務室を出ていく
しばらくしてイワノフが戻ってくる
イワノフ「ふー」
「大将の言う通り床に引き倒して頭鷲掴んでブチ犯されてえのかこのド低能の猿野郎がって言ってやったぜ」
ガスト「そこまで……」
イワノフ「確かに大したタマだな。無事で済むと思ってんのか」
ガスト「……あいつが公言しないと思っているんだろう……」
イワノフ「ナメられ過ぎだ」
ガスト「…………」
イワノフ「本人が親の権威を嫌がろうが何だろうが、あの見てくれはここじゃ毒だぜ」
「過保護になるくらいじゃねぇと、何かあってからじゃ遅い」
ガスト「…………」
イワノフ「あいつを猿共の性処理道具にしたい訳じゃねぇんだろ?」
ガスト「そりゃ……」
「……ただ……本人の自主性も……」
イワノフ「反抗期なんだよ反抗期!」
「つっぱってるうちに本当に被害者になってようやく泣きつく。それじゃ遅い」
「父親やるなら本気でやれよ。ちゃんとあいつを子ども扱いしろ!」
ガスト「子ども扱い……」
イワノフ「大人扱いする方がそりゃラクだろうがよ」
ガスト「してるつもりはあったんだがなぁ……」片手で額を覆う
イワノフ「自由と放任を履き違えるなよ」
ガスト「難しいな……」
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